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管理人は、アメリカ南部・ルイジアナ住人、伊勢平次郎(81)です。
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従順な飼い犬の面々、、
日本はアメリカの準州

US territory pacific

フィリッピンがどうして赤く塗られているのか分からないが、これがアメリカが支配する「太平洋のテリトリー」という。支配とは覇権です。つまり米軍と米経済の下に置かれている。だが、日本は赤く塗られていない。だが、事実上米軍と米経済の支配下に置かれている。韓国も同じです。アメリカの前国務次官などの話を聞いていると、日本を準州と見ていることがあ明らかなんです。質問が、日本の憲法改正が一向に進まない国会とかサヨクの反米感情に及ぶと、「心配ない。日本は強制すればよい」と答えている。ムカッとしたが、自分でもそう思う。アメリカや太平洋の安全保障を考えると、日本は頼りにならないからです。

準州とはコロニー

大英帝国が支配したインドや香港と違い、アメリカの総督を東京に置くわけではない。日米同盟から出られ得ないようにしておけばいいからです。日本人はインド人やフィリッピン人と違って、教育が高く、勤勉で、生産性が高いから植民地にする必要がない。自民党や経団連を支配下に置けば良いだけ。つまり、これらが、アメリカの僕(しもべ)です。しかも、日本人は従順なんです。すると、安倍晋三はアメリカの植民地の首相です。そういうふうに見ると、日本は赤く塗られていないが、アメリカのコロニーですね。伊勢

日本は、植民地政府

abe naikaku

フィリッピン、タイ、シンガポールの首相や大統領と同じように、安倍晋三は、アメリカの飼い犬なんです。たいへん従順なんです(笑い)。伊勢
11/26
可愛いパンダ
11/22
感謝祭・古き良きアメリカの祝日
thanksgiving day painting

感謝祭は、イギリスからマサチューセッツ州のプリマス植民地に移住したピルグリム・ファーザーズの最初の収穫を記念する行事であると一般的に信じられている。ピルグリムがプリマスに到着した1620年の冬は大変厳しく、大勢の死者を出したが、翌年、近隣に居住していたインディアンのワンパノアグ族からトウモロコシなどの新大陸での作物の栽培知識の教授を得て生き延びられた。1621年の秋は、特に収穫が多かったので、ピルグリムファーザーズはワンパノアグ族を招待して、神の恵みに感謝して共にご馳走をいただいたことが始まりであるとされる。イギリス人の入植者もワンパノアグ族も秋の収穫を祝う伝統を持っていて、この年のこの出来事は特に感謝祭と位置づけられてはいなかった。プリマス植民地で最初に祝われた1623年の感謝祭は食事会というよりもどちらかというと教会で礼拝を行って、神に感謝を捧げる宗教的な意味合いが強かった。




妻や子供が幸せなことはもっとも重要なんです。日本には、節句の祭りがありますね。伊勢爺は、日本人にとって、正月ほど重要なお祭りはないと思っている。理由は、国民の心が一つになるからです。伊勢
11/21
中東発「世界第三次大戦」を想う
islam countries

この地図をよく見てください。北アフリカのイスラム圏です。地中海の向こう岸は、キリスト教国ケンとその東にイスラム教徒のトルコやロシアのコーカサスにチェチェンがあります。このイスラム教徒の国は、スン二派とシーア派で、少なくとも、モハメッドが生まれたときから、その出生を巡って、血で血を洗う殺し合いをやってきました。イランとイラクがシーア派で、その他は全てスン二派です。その中で最も険悪で、「天敵である」と敵視しているのが、サウジアラビアとイランなんです。サウジアラビアには、アメリカとイスラエルが付いており、イランには、イラクのシーア派政権とロシアが付いている。米軍がそのイラクに駐屯してはいるが、いずれ退去を求められると言われています。そのとき、サウジアラビアは恐慌に陥るわけですね。または、オイルが枯渇するとき、、


saudi arabia camel

サウジはべドウイン族という放牧民族だった。それが、砂漠に原油が湧き出て、石油大国になった。ところが、王国なんです。一方のイランは宗教国家であるが、科学技術が発達しています。女性も識字率が高く、大学を出る人が多い。イランは、イスラエルを敵視してきたのです。そのイスラエルは核保有国だから、イランも核を開発している。イランの東には、核保有国のパキスタンと反米のアフガニスタンがある。


saudi trump

トルコのイスタンブールのサウジアラビア大使館の中でジャーナリストが骨切りのこぎりでバラバラにされて、その遺体はバケツで運ばれた。暗殺を命じたのは、モハメッド・ビン・サルマン王子だとCIAが報告しています。今日、これをトランプは非難しないと決めたのです。すると、アメリカは中東政策を大きく変えない限り、イラン、イエーメン、イラクの反感を買うとなります。ロシアとチャイナはしばらく静観しようと決めたようです。


さて、日本は?



アメリカとイスラエルの戦争に利用されるでしょうね。伊勢
11/19
「フェイク日米同盟」日本人は敗北主義者となった
defeatism image

「自分は何をやっても勝てない」というあきらめが敗北主義なのです。東京空襲~沖縄地上戦~広島長崎原爆投下という無差別市民虐殺に対して、日本政府は抗議してこなかった。西洋では、ユダヤ人虐殺などを「ジェノサイド」と言います。アメリカはナチスのユダヤ人虐殺を非難した。だが、日本人に対して、自らがジェノサイドを強行したのです。「日本が降伏しないから」と正当化してきました。安倍晋三は、いくらでもチャンスがあった。だが、国連でも、一度も抗議しなかった。これでは、アメリカの主張を認めたとなります。


日本に核保有を勧めます



中國海軍でも持っている。

海上自衛隊の潜水艦が水中から発射できる核ミサイルは、無言の抗議になるからです。だが、ここでも、「アメリカが認めないから」とか敗北主義が見られますね。安倍や石破は、日本の主権をも捨てるという敗北主義者なんです。九条の会などは、自衛隊員の命などどうでもよいという敗北主義者の団体なんです。自衛隊員は、非戦平和主義の国民を守る義務などない。伊勢
11/16
CNN vs. トランプ暴力大統領



米ホワイトハウス、CNN記者の記者証を取り上げ 記者会見で舌戦
2018年11月8日

米ホワイトハウスは7日、ドナルド・トランプ大統領と舌戦を繰り広げた民放CNNのジム・アコスタ記者の記者証を取り上げた。

サラ・サンダース報道官は、アコスタ記者が「若い女性に手を上げた」ため、記者証をはく奪したと説明した。

CNNのホワイトハウス特派員を務めるアコスタ氏は、7日の記者会見でトランプ大統領から「失礼でひどい人間」と呼ばれた。

アコスタ氏と大統領のやり取りの最中、ホワイトハウスの職員がアコスタ氏のマイクを取り上げようとしたが、アコスタ氏はそれを拒み、さらに質問を重ねようとした。

問題となったこの場面はすぐにインターネットにも掲載された。米NBCニュースのツイッターアカウントは、「記者会見中、ホワイトハウスの職員が、トランプ大統領とやり取りしていたCNNのジム・アコスタ特派員のマイクをつかみ、体で奪おうとした」と書いた。

ホワイトハウスの説明

サンダース報道官はツイッターで、「職務を全うしようとした若い女性に手を上げた記者を、ホワイトハウスは決して許さない」と説明した。

「CNNが従業員の振る舞い方を誇っていることは不快なだけではない。現政権で働く若い女性を含む全ての人に対してCNNが働いている、とんでもない無礼な真似の一例だ」

「ホワイトハウスは今日の出来事に関わった記者の記者証を、追って通知があるまで停止する」

これに対しアコスタ氏は、自分が女性に手を上げたというサンダース氏の主張は「うそだ」と反論した。

さらに、「たったいまホワイトハウスへの入場を拒否された。シークレットサービスから、午後8時の中継で敷地内に入れないと告げられた」とツイートした。


伊勢の嘆き

アコスタ記者のような勇敢な記者は日本にはいないのかねえ?産経の古森は、この動画を観てどう思っているのかな?ま、古森はトランプの崇拝者だからね(大笑い)。
11/15
犬は人間のベストフレンド
11/12
外国人労働者受け入れ。自民党は汚い政党
abe naikaku

国防を怠り、中國の公船とやらに領海侵犯をゆるし、北朝鮮にやりたい放題やられ、拉致被害者はトランプ頼み、韓国に強請られ、中國に北海道を買われ、今度は外国人労働者を受け入れるのだと、、こんな男が首相ねえ?伊勢

安倍晋三は売国奴である

abe russia

安倍晋三の女房は遊び人です。鳩山由紀夫の女房と寸ぷの違いもない。家庭を持ったことがないから子供の問題が分らない。だから、いじめを放置してヘイチャラです。国費で、バッカな顔をした女房と外国旅行ヘ行くこと程嬉しいことはない。政権にだけ関心がある。あとは、野となれ山となれ。安倍晋三は、日本史上最悪の総理大臣です。伊勢
11/11
フランス大統領マクロンは「ヨーロッパ軍」の創設を提案した
trump Macron 3

"We want to help Europe, but it has to be fair," Trump told Macron just hours after he and his French host clashed over American defense commitments in Europe. "Right now, the burden sharing has been largely on the United States."

トランプ: 「われわれはヨーロッパを助けたい。だが現在、アメリカの負担が大き過ぎる」

Macron, who has proposed creating a "European army" because of what he sees as wavering U.S. support, told Trump his idea backs up the American's call for more burden sharing by Europe.

マクロン: 「バーデンシェリングなら、ヨーロッパ軍を創設することが出来る」


マクロンと対照的なのがこの晋三

abe trump the worst

「トランプ大統領様、お背中を洗わせて頂きます。日本を宜しくお願します」 マクロンは若干40歳です。晋三はいくつなんかな?


晋三には、ハートなどない<

nagasaki genbaku3

伊勢は、空を焦がす長崎の焼野原に赤ん坊を背負って呆然と立ち尽くすこの女性を想う。だから、日本も核武装が必要と主張してきた。それが、唯一の日本の国防だからです。安倍晋三は男芸者なんだ。何を忠告しても、「でも~、トランプの旦那が、、」と耳を貸さない(笑い)。原爆を落としたのは、トランプのような白人です。
11/09
アメリカ中間選挙:女性の革命
trump big loser

トランプの印象は非常に悪い。教育の高い女性に嫌われている男です。


rep dem candidates

民主党はこれほど多くの候補を出した。民主党の新人女性下院議員は100人を超えた。


new congress woman

ニューヨークで当選したプエルトリコ人の女性は29歳となったばかり。働く女性側に立つ社会運動家で苦労人。


new  IihanOmar

ミシガンとミネソタでは、イスラムの女性が選ばれた。パレスチナとソマリア出身である。


new congress nativee 2 indians

二人のアメリカインデアンの女性が選ばれた。


new congress illinois

黒人のまたは黒人の混血の新人下院議員は18名です。


女性の革命です

コロラドでは、「自分はユダヤ系で同性愛者です」という男性が知事に選ばれた。多くの同性愛者が下院議員に選らばれた。新人はほとんどが有色人種の女性です。この意味するところは、共和党の主張してきた同性愛反対~イスラム排除~ヒスパニック移民排除~女性議員排除が全て裏に出たということです。共和党の女性議員は12人に過ぎない。共和党白人は女性や有色人種を人間と思っていないことが明らかですね。これほど愚かな政治団体を見たことがない(笑い)。この社会革命だと女性それも有色人種の大統領が生まれる可能性が高くなった。女性大統領は日本に来て、広島長崎への原爆投下を謝るでしょう。こうして、歴史が変わるんです。伊勢


11/06
三沢米空軍基地の工事が真っ盛り









伊勢は、自分を誇りに思っている

昨年の9月、カミさんと久しぶりに日本へ行った。成田からバスで立川ヘ行った。聘珍楼で泰成工業(千代田区)のMephist社長(48)に会った。中華料理を食べていたら、「三沢米空軍基地に呼ばれたので、通訳が要る」と若社長が言った。「いつ?」「明後日の水曜日」「エエ~」、、ということで、羽田から三沢に飛んだ。米防衛産業大手のAPTIM社から、ご覧の工事や修理を受注した。羽田ヘ帰る便の中、「三沢の次を考えよう」と話し合った。横田米空軍基地の燃料タンク関連も受注した。

今年5月、Mephist社長~わがカミさん~伊勢の三人がテキサスのダラスへ飛んだ。APTIM社の重役~日本部長さんら5人に面会。「もっと仕事をくれと」言った。次の週の6月6日は伊勢の誕生日だった。日本部長さんがダラスから東京へやって来た。米国防省の2020RMMRへの入札だった。APTIM社と泰成工業が落札した。これは、沖縄~佐世保~岩国を除く、関東の米空軍基地~米海軍基地~米海軍飛行基地、~キャンプ富士~鶴見~青森八戸の燃料パイプラインおよび諸々の巨大なメンテと修理の受注なんです。伊勢は、契約~米法律事務所~アメリカ側とのコミュニケーション担当。つまり、77歳で現役(笑い)。伊勢


全て、中国~ロシア~朝鮮半島が原因

china 2050 plan 2
11/02
垂直の壁
ice climbing

垂直の壁


「先生、おはようございます」

生徒が立ち上がって教師に挨拶をした。

「はい、おはよう。今年も重陽の節句がやって来る。中国では、この日は古くから山に登って菊花酒を飲む習慣がある。杜甫の詩、登高のテーマになっている。石川君、読んでくれないか?」

石川一歩は、東京都立戸山高校の三年生である。夏休みが終わって二学期が始った。戸山高校は大学進学校である。漢文の授業に出る学生は、文科系の大学を目指す学生で授業を受ける学生の数はまばらだった。石川一歩もその一人であった。一歩は立ち上がると四方に頭を下げた。一歩は黒縁の丸い眼鏡をかけ長髪を後ろで束ねて結んでいた。一見、ガーリッシュに見えるのだが、日焼けしており、よく見ると理知的な風貌である。

風急に天高くして 猿嘯(えんせう)哀し
渚清く 沙(すな)白くして 鳥飛び廻(めぐ)る
無辺の落木は蕭蕭(せうせう)として下り
不尽(ふじん)の長江は袞袞(こんこん)として来たる
万里悲秋 常に客と作り
百年多病 独り台に登る
艱難(かんなん)苦(はなは)だ恨む繁霜の鬢(びん)
潦倒(ろうとう)新たに停む濁酒の杯

「うん、石川君は漢詩の成績が抜群だ。詩の心を持つということは、感性が高いということだ。それを一生、大事にして欲しい。君は教育大学を志望しているんだね?良い教員になると思う」

だが、石川一歩は悩んでいたのである。一歩は受験勉強をほとんどやっていなかった。ヘルマンヘッセの長編である「車輪の下」を昼夜を分かたず読み耽った。一歩は周りに誰も支えてくれる人がいない神学生のハンスに自分を見た。ハンスを圧し潰した車輪が人間の社会であると共感していた。一歩は鬱病を持っていた。鬱に対抗するために山に登った。三枚重ねの登山服を着て、底のごつい登山靴を履き、リュックを背負って家を出た。父親は、一歩が母親に似て陰気な性格なので、「山に行く」と言って玄関を出て行くとほっとした。そういうわけで、一歩は、夏休みを、ほとんど山歩きとヘッセを読むことに使ってしまった。南アルプスを八日間で縦走し、「人食い山」と言われる谷川岳にも単独で挑戦した。一歩は、滑落事故で死ぬなら、それでもいいと思っていた。だが、死ななかった。今度は、冬の北アルプスを縦走してみようと考えていた。厳冬登山なら、登攀具、食糧、炊事・露営用具をすべて自分で担ぐわけだから、かなりの体力が必要である。一歩は、成育しきっていない自分の体力では確実に死ぬだろうと思っていた。一歩はそういう死に方を望んでいたのである。

一歩には孤独癖があった。あまりしゃべる性格ではなく、ジャズを聞いたり、西欧の文学書を読む青年だった。小学生だった一歩は母親に虐待を受けた。少年には、その理由が分からなかった。母親は自分の性格に似た一歩を嫌ったのである。一歩の母親はキリスト教系と思われる天国の門というカルトに入っていた。その母親が、一歩が中学一年生のときに自殺した。常磐線の駅のプラットホームから線路に身を投げて、入って来た電車に轢かれたのである。母親は精神科に通っていたと父親が言った。父親は、トランペット奏者なのだが、数人の仲間と路上でジャズを演奏して小銭を稼いで生活していた。まあまあの生活が出来たのは、母親の祖父が残した小さな遺産であった。

「それで、お前、大学へは行くんか?」
「わからない」
「行きたいのか?」
「あんまり」
「アホ、高卒じゃ高級取りにはなれん。お前、どうやってメシ食うんや?」
「東京は大都会、路上でトランペットを吹いても食える」
「一歩、俺みたいなグウタラになったらいかん。絶対、いかんぞ!」


九月九日、隅田公園で菊の品評会があった。ピクニックの季節である。一歩が銀杏の木の下で楽しそうに重箱を開けている四人の親子を見ていた。母親が小学生の息子の口に稲荷寿司を入れるのを見た。そのとき、ふと、一歩は、「自分にも精神病があるんじゃないか?」と思った。家へ帰って、精神内科医をグーグルで探した。どうも心療内科医と言うらしい。

「石川君は、自殺したくなったことがあるの?」

医師が一歩の心の中を読むかのように眼を見つめた。一歩が俯いた。数秒が経った。

「何度もあります。何とも言えないほど気力が落ちて、何日も寝られないんです。ようやく眠ったと思うと、古井戸に落ちて行く自分を夢に見るんです。目が覚めると汗をびっしょり、かいているんです」

「日本ではね、一年に三万人もの自殺者が出る。日本は自殺大国なんだよ。高齢者の自殺の多くは病苦が原因なんだが、若者の自殺の原因は、自分のアイデンティティが分からないことなんだ。精神医学会では、アイデンティティ・クライシスという」

一歩は、自分にもその傾向があると思った。

「ちょっと、説明しよう。自殺の原因を失業して、借金が重なり、食べていけなくなったからとよく言われるが、それは嘘です。世間体さえ気にしなければ、今の日本で餓死するところまで追いつめられない。失敗は人生の常だから、また頑張ればよいだけです。では、どうして死ぬ気になるのか?テレビを見ていると、若い警察官がピストル自殺したというニュースが流れた。顔写真を見てやっぱりと思った。自殺する人の多くは世間の評価を気にする人なんです。――自分は誰にも愛されていない、、職場でも、家庭でも自分は嫌われている、、社会の評価がアイデンティティーというわけです。つまり他人の評価による自分の価値です。しかし、人間、すべての人から良い評価を得ることは不可能です。 自殺する人は失敗を恐れている。失敗すれば今までの努力はすべて無意味になる。自分に価値がなくなったように感じて世間を大手を振って歩けなくなる。この警察官が追い詰められたのも、やはり世間体ではないかな?それなら、その答えなんだが、世間体さえ捨てれば、いいんです。つまり、世間の評価で自分の価値を決めることをやめれば、自殺しなくてもよかったのではないだろうか?世間体で生きるということは、「他人の山」を登る生き方です。「他人の山」で人生が終わってしまうのは寂しいことです。君に忠告を上げよう。自分の価値を何を基準に決めているのか。本当の価値はどこからくるのかということを考えて欲しい」

一歩が母親が自殺したことを話した。

「そうなの?でもね、お母さんの自殺は君には関係ない。結びつけてはいけない。人は親子でもね、夫々なんだよ」
医師が一歩に精神安定剤をくれた。抗うつ剤ともいう睡眠薬である。睡眠不足が続くと苦悶から逃れようと自殺を考えるからである。一歩が睡眠薬の瓶を手に握った。そして、相談に来てよかったと思った。やはり専門家の意見を聞くことだ。だが問題が残った。一体、自分が生まれてきた価値って何なのか?一歩は、自分は、結局、負の力に負けるんじゃないかと恐れた。そこで、学校に心療内科医の診断書を提出して休学することにした。つまり、石川一歩は大学進学を断念したのである。


十月に入ると、高峰さくらも一ヶ月の休学届を出した。高峰さくらが同級生の石川一歩が北陸新幹線富山駅の改札を出るのを見た。

「あら、石川君じゃない?、どうして富山に来たの?」

一歩は、登山服、登山靴、そしてチロルの登山帽子を被っていた。黒縁の丸い眼鏡と長髪を輪ゴムでポニーテールに結んでいる以外は、なかなか男前である。

「あれ?高峰君は富山の人なの?」
「そうよ。あなたの故郷はどこなの?」
「東京の浅草駒形一丁目。隅田川のほとり」
もう少しで「どぶ川のほとり」と言いかけて口をつぐんだ。石川一歩の声には一種の悲しさがあった。夏休みになると田舎ヘ帰る同級生が羨ましかった。
「石川君が授業に出なくなったって、わかってたけど、どうして富山に来たの?」
「別に特別な理由はないんだけど、明治維新まで富山は陸の孤島だったって読んだとき、いつかは行ってみようと思ってた」
「あら、お父さんが来てくれたわ」

さくらが父の松雄を一歩に紹介した。高峰松雄が長髪を女の子のようにポニーテールにした高校生を見ていた。それに黒縁の眼鏡がジョン・レノンのように見えた。松雄が構えたのは、カネを掛けて東京の高校にやった娘が男ともだちと現れたからである。一歩が、松雄の眼を見てたじろいだ。

「あら、お父さんたら嫌ね。石川君は、私のボウイフレンドじゃないわよ。改札口で会ったのよ」とさくらが笑った。高峰松雄がほっとする様子が一歩に見えた。

「今夜、君は、どこに泊まるの?」
「氷見(ひみ)の民宿なんです」
「JRで氷見駅までちょっとだけど車で送ってあげよう」
「助かります。何しろ、富山は生まれて初めてなんです」
さくらが一歩に何日の旅程かと聞いた。
「あら、五日なのね?お父さん、石川君をうちに泊めてやって?」
「ああ、いいよ。でも都会育ちの君はびっくりするかな?」

駐車場にトヨタ・ランドクルーザーが停まっていた。車体がところどころ錆びていて、年式が相当古い。だが、タイヤが新しく、良く整備されているように見えた。さくらがリュックをトランクに投げ込むと助手席に乗った。さくらは、切れ長の目に、長い眉毛の北陸の日本女性である。豊かな黒髪を大人っぽく結い上げていたが、結構やることが荒っぽい。松雄が、ぽかんとしている一歩のリュックとピッケルを掴んでトランクに入れた。一歩がビニール製のサックを持って後部座席に座った。

「あら、石川君、釣り道具を持って来たの?今、イワナの季節よ」と振り返ったさくらが一歩に聞いた。
「いや、これ釣り道具じゃないんだ」
一歩が聞かれたくないかのように話を続けなかった。

「さくら、お父さん、北陸道に乗る前のインターチェンジで、コーヒーが飲みたいんだ」
「あ、ボクも飲みたいです」

松雄が運転するトヨタ・ランドクルーザーが富山市街を南へ走って北陸自動車道のICの駐車場で停まった。三人がコインで食券を買うと、コーヒーと生クリームがたっぷり盛られたストロベリーケーキを持ってブースに座った。一キロほど南に飛行場が見えた。その向こうに立山連峰が見える。赤い機体のエアバスが離陸して富山湾の方角に飛んで行った。

「石川君、あれね、富山きときと空港って言うのよ。あれは上海航空のエアバスよ」
「高峰君のおうちは何処にあるの?ボク、劔岳に登りたいんだ」
「劔岳?恐いわよ。五箇山白川郷って聞いたことある?こっちの方が安全よ」
「五箇山?」
さくらが一歩にマップを広げて見せた。

「ずいぶん、田舎だね?何があるの?」

一歩は田舎を見る気はなかった。立山を縦走して、剣岳の岩場を征服する考えだった。

「石川君、写真機持って来た?五箇山は世界遺産なのよ」

世界遺産と聞いた一歩が興味を持った。

「親父のペンタックスを借りてきた。十五万円したんだ。壊すなよって脅された」

さくらが笑った。一歩がペンタックスを取り出すと南の立山連峰をパノラマモードで撮った。三人が車に乗って北陸自動車道を西へ向かった。十五分も走ったかと思うと、小矢部栃波ジャンクションに着いた。そこから東海北陸自動車道を南へ走った。さくらの父親は観光バスの運転手のように規則を守った。一歩が、速度違反で常に東京地検に呼び出される父親を想った。左手に高い峰が見えた。

「あれね、高清水山っていうのよ。このあたりは温泉が多く湧き出ているのよ」
「野天風呂もあるの?」
「あるけど、登山家が利用するだけ。辺鄙な場所にあるから」
「石川君は、登山が好きなの?」

一歩が遠くを見る目になっていた。一歩は、自分でも富山を選んだ理由が分からなかった。登山雑誌で劔岳の写真を見たとき、この山が自分の死に場所ではないかと思ったのである。石川一歩が着々と自殺を準備していた。

「好きっていうか、山に登ると元気が出るから」

一歩が嘘を付いた。

「あら、そうだったの?」
「高峰君の部活は何?」
「カッター部よ。利根川にカッターを降ろして八人で櫓を漕ぐのよ」
「ええ~?江戸っ子のボクが山で、富山生まれの君は川なのか?」
「私ね、川や海が好きなの」

五箇山の標識があった。富山駅から五箇山まで、距離五八キロ、所要時間は四二分だった。富山市まで通勤できる距離である。松雄が五箇山総合案内所の前でランドクルーザーを停めた。三人が案内所へ入った。受付の初老の男が立上がった。

「あっ、高峰大将、今日はお休みなんですか?」
「田中さん、大将はいかん。ただの海上自衛官や」
「高峰君、お父さん、自衛官なの?」
「そうなのよ。一度、退職したんだけど、音楽隊の指揮者なのよ」
一歩の眼が輝いた。その音楽隊の指揮者がパンフレットを選んでいた。
「高峰君、音楽隊の話しを聞きたいな」
「日曜日に海王丸パークの魁皇岸壁で演奏があるわ。行きたい?」
「是非、、ボク、ブラスバンドが大好きなんだ」
高峰家は旧家である。合掌造りの大きな家だった。勾配の急な藁ぶき屋根から雪深い山村だと一歩にも判った。
「さあ、遠慮なく入りなさい」と松雄が言った。土間に入ると意外に涼しかった。
「いらっしゃい」と声がした。さくらの母親である。さくらの妹が挨拶した。目がクリクリした中学生である。
「お父さん、魚、買ってきた?」
「ああ、駅前の魚富でアゴとアカダイ買ってきたよ」
アゴというのは、日本海の夏の魚であるツクシトビウオのことである。
「石川君、トトボチって言うんだけど、トビウオのすり身なのよ。お父さんの晩酌の肴なのよ。東京なら銚子のイワシだけど、イワシよりもランクが上なの。アカダイは、味噌焼きが美味しいわよ。お刺身も美味しいけど。五箇山の人たちは焼き魚が好きなの」
「ボクもその方がいい。そのトトボチを食べたいな」
「ハハハ、君は酒飲めるのか?」
「はあ?」

松雄が心を読まれまいと警戒する一歩に陰気なものを感じた。


「佐々成政(さっさ なりまさ)をさくら君はどう思う?」
黙って歩いていた石川一歩が突然、高峰さくらに聞いた。三年間、クチを聞かなかったふたりの同級生は環境がそうするのか急接近していた。「さくら君、一歩君」と呼ぶようになっていた。リュックを背負ったふたりが五箇山をハイキングしていた。秋の高原の空気は涼しかった。ハイキングと言っても平坦な土地で散歩に近かった。色とりどりのコスモスが風に揺れていた。栗の木が実を着けていた。檜に停まったツクツクボウシが鳴いていた。音に敏感な一歩の頬が緩んだ。

「どうって?」
「いや、懸賞小説を書こうと思ってね。劇画を読んでて、この佐々成政を考え着いただけなんだ」
「私のご先祖が成政公の馬廻り衆だったのよ。私、成政があまり好きじゃないのよ」
「どうして?富山の領主だったんだけど?」
「成政は名古屋の人だし、信長に重宝な武将だったって言うけど、結局、秀吉に反抗して戦に負け、首をはねられるところを懇願して免れ、この富山の領地も取られてしまったってお父さんが言ってたわ。戦国時代ってヨーロッパにもあったし、小説の主人公に値しないと思うのよ」
「ふ~ん、富山県の遺産だけど、成政は関係ないか?それよりも、ふたりで劔岳か白馬(しろうま)岳に登らない?」
「う~ん、今回は無理かもね。私ね、海上自衛隊の講習を受けるの」
「へえ~?どうして」
「ウエーブって知ってる?海上自衛官になるの」
「あれ?教員になるんじゃなかったの?」
「私、性格がガサツだし、体育型だしね、セーラーの方が自分に向いていると自覚したのよ。一歩君はどうするの?」
「いやあ、ボクも中学校の国語の教員を考えて入ったんだけど、自分は陰気だから生徒に好かれないと思う」
「一歩君、あなた、それほど陰気じゃないわよ。ガーリーだけど、日焼けしてるし。東京にはいくらでも仕事があるわよ」
「親父が怒るだろうな」
「一歩君のお父さん何してるの?」
「浅草の路上でトランペット吹いてる」
「まあ、ミュージシャンなのね?」
「いや、大道芸人さ」
「一歩君のお母さんは?」

一歩が、自分の母親が一歩が小学六年生のときに自殺したと話した。さくらが沈黙した。家に戻ると松雄が大斧を振るって、ナラの木の幹を割っていた。一歩が上半身裸になると、薪をリヤカーに積んで納屋に持って行った。さくらも妹も手伝った。松雄が、手斧を持ってきて、一歩に薪木の作り方を教えた。ヒグラシが鳴いていた。山岳地帯は陽が沈むのが早い。夕闇が迫った頃、作業を終えた。これが五箇山の冬支度であった。


伏木港万葉岸壁三号に音楽隊が集まっていた。川の向こう岸に海王丸パークが見えた。護衛艦おおなみが岸壁に横着けされていた。天高く馬肥えるという快晴である。おおなみの船尾の日の丸の旗が海風にはためいていた。観光客が参観できるというので、埠頭に集まっていた。吹奏楽が始まるのを待っているのである。ユニフォームに白い制帽を被った高峰松雄が指揮棒を振った。儀礼曲は、君が代行進曲と軍艦マーチである。さくらがおおなみの艦内に一歩を案内した。

「さくら君、いつ、入隊するの?」
「正式には、三月に高校を卒業してからなんだけど、大学に進学しないと決めたんで、お父さんとボランテイアをしているのよ」
「さくら君は、進路が決まっていいね」
一歩の声に寂しさがあった。さくらに遅れた自分を想って情けなくなっていた。

「一歩君、ほんとうに単独で劔岳の岸壁を登るの?カニノタテバイって急傾斜の雪渓があるし、ベテランの登山家でも滑落して死ぬのよ」
「うん、氷雪を回避するから、大丈夫」

一歩が、さくらと松雄に感謝のことばを述べて歩き去った。さくらが、ピッケルをリュックに差して、ヘルメットを括りつけた一歩の背中に寂しさを感じていた。

「そうか?さくら、お父さんも同じことを考えていた。石川君は自殺するだろう。石川君の読んでいる車輪の下は、生きるべきか、死ぬべきかと悩む神学生の話しなんだ」
「直感なんだけど、カニノタテバイから飛び降りる感じがするのよ」
「そう思って、家から登山道具とテントを持ってきたんだ。陰からついて行こう」
「お父さん、拡声器を持って行こうよ」

松雄がおおなみの自衛官から拡声器を借りた。

室堂から劔岳に登る場合は、剱沢で一泊するのがオーソドックスな登山スタイルである。劔岳の登山口である室堂への交通機関は、ケーブルカーや高原バスを乗り継ぐ「立山黒部アルペンルート」と富山駅前から室堂に直通する「夏山バス」の2種類がある。一歩は、夏バスを選んだ。さくらと松雄のランドクルーザーは先回りすることにした。夏バスがバス停にくるのを見た松雄がランドクルーザーを発進させた。一時間二〇分で室堂の登山口に着いた。一歩は安い室堂山荘を選ぶだろうと松雄が室堂ホテルの駐車場にランドクルーザーを停めた。二〇分後、やはり、夏バスが室堂ロッジの前で停まった。一歩が降りるのが見えた。一歩が山荘の受付で登山届を提出した。十月の登山客は少なかった。


十月四日の夜が明け始めていた。さくらが腕時計を見ると六時である。さくらが布団を跳ねのけると室堂山荘に電話を掛けた。

「石川さまは、十分前にチェックアウトしました。何か?」
「いえ、同級生なんです」

さくらが布団にくるまって寝ている松雄を起こした。アノラックを着て登山靴を履くと、外に出た。チェックアウトは昨夜、済ませてあった。ランドクルーザーを室堂平の登山口の駐車場に置くと、リュックを背負って剣岳を目指して歩いた。松雄が拡声器をさくらの背中のリュックに結んだ。さくらが双眼鏡で登山者のグループを見ていた。最後尾を一歩が歩いているのが見えた。

「お父さん、石川君ね、劔沢キャンプ場に泊まると思うの」
「さくら、俺もそう思う。カニノタテバイだろう。別山尾根から劔岳に登るとすると、劔沢の山小屋だろう」

一歩はなかなか健脚のようだ。室堂 を出てから四五分で雷鳥沢キャンプ場 。三五分で 立山室堂山荘 。四〇分で一の越山荘。四五分で雄山。一〇分で富士ノ折立 。三五分で真砂岳 。四〇分で 別山南峰。二五分で剱御前小舎。三五分で剱沢キャンプ場 に到着した。アルピニストの上級コースである。石川一歩は六時間弱で剱沢キャンプ場に入った。太陽が真上に来ていた。さくらと松雄が一歩から離れた場所に夫々のテントを張った。キャンプ場だが、岩がゴロゴロ転がっている緩やかな斜面なのだ。さくらと松雄は室堂ホテルの売店で買った弁当を開けて食べた。さくらが、双眼鏡を取り出すと、腹ばいになって、やはり弁当を開けて食べている一歩を見ていた。一歩が水筒の水を飲むのが見えた。一歩のノドボトケが動くのが見えた。さくらの背筋が冷たくなった。

「お父さん、今、石川君に会ったらどうかしら」
「いや、待とう。石川君が二度と自殺を企てることのないようにタイミングを計ろう」

ふたりが仮寝した。四時間が経った。陽が暮れ始めていた。一歩がテントから出て、湯を沸かしていた。インスタント味噌汁で弁当の握り飯を食った。辺りが暗くなった。一歩がランプを点けて、「車輪の下」をリュックから取り出した。松雄が湯を沸かした。こっちも握り飯であった。陽が沈むと気温がぐ~んと下がった。空が雷雲に覆われ、稲妻が走ると落雷が聞こえた。大雨がテントをバタバタと叩いた。


二日目の朝が来た。雨はすっかり止んでおり、谷間から霧が吹きあげていた。一歩がテントを畳むのが霧の中に見えた。

「さくら、カニノタテバイが恐いか?」
「写真で見たけど、鎖場は怖いわ。だって、初めてなんだもの」
「お父さんは、石川君より先に頂上に着きたい」
「わかるわ。でも、私、お荷物よ」

松雄がさくらの登山靴の紐を二重にして固く括った。ふたりがコバイケイソウの花が咲く登山道を一服剱に向けて登って行った。岩伝いの鎖場やハシゴのルートである。難所としてカニノヨコバイ、カニノタテバイと呼ばれる鎖場がその先にある。「浮石が多く転倒、滑落事故が多い」と注意書きがあった。鎖場には番号が付いていた。親子が5番目鎖場のトラバースを終了し、簡単な6番目鎖場を下り、前剱の門の鞍部に立っていた。 平蔵の頭まで稜線上の穏やかな登りが続いた。平蔵の頭に向かう岩場のトラバースが8番目鎖場である。親子は何なく通過した。平蔵の頭に降り立ち、右方向に進んだ所が、剣岳の核心部であるカニノタテバイの取り付きである。 カニノタテバイを下から見上げると傾斜は緩く感じる。だが、実際は約七〇度の壁が一七メートルほど続く難所なのである。カニノタテバイを登り切れば難所が終了し、簡単な岩場を登ると目的地の剣岳山頂なのである。剣岳山頂からは、別山の先に立山三山、遠望には、白馬岳、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、爺ヶ岳と連なる後立山連峰の眺望がある。

カニノタテバイの斜面が見えた。一歩が鎖を使わず、東斜面をトラバースするつもりなのか岩に腰かけて、アイゼンを登山靴に取り付けていた。つぎに、皮手袋を履くと、ピッケルを手に持った。雪渓があるためアイゼンとピッケルが必要なのである。

「まずいな。さくら、拡声器をよこせ!」
「でも、私たちが先に頂上に着けるわよ」
「う~む、まあ、ピッケルを持ってるから飛び降りるつもりじゃないんだろう」

さくらが、前剱を見ると垂直の壁に見えた。これが冬には氷壁となるのである。鎖場は意外に緩やかだった。親子が劔岳の頂上に立った。下を見ると、一歩がルートから離れた岩に腰掛けていた。

「あら、頂上に来ないのかしら?」

一歩がリュックに括ってあったあのサックを手に持っていた。サックから一歩が取り出したのは、トランペットであった。一歩がトランペットを吹き出した。

「マイルス・デイビスの死刑台のエレべーターだな」
「死刑台のエレベーター?」
「石川君はプロ級のトランぺッターだ」

吹き終わると、一歩がトランペットをサックに入れて立ち上がった。

「さくら、拡声器をよこせ!」

さくらは父に答えず拡声器を口に当てた。

「石川君、死んじゃ駄目よ!」

さくらの声が北アルプスの峡谷にこだました。びっくりした一歩が振り向いた。

「あなたが死ぬなら私も死ぬ」

これはさくらの咄嗟の思い付きなのだが利いた。一歩がさくらと松雄を見て動顛していた。

「石川君、死ぬことはない。頂上に登ってきなさい」

松雄が自衛官に戻っていた。そしてザイルを腰に巻くと崖下ヘ投げた。初めにリュックとピッケルを引き上げた。ザイルを掴んだ一歩が登って来た。三人が無言で抱き合った。さくらが泣いていた。それを見た一歩の眼から涙がこぼれ落ちた。三人は劔山荘ヘ向かって山を下りた。山の上部は森林限界のハイマツ帯である。アオノツガザクラやハクサンイチゲなどの高山植物が自生していた。雷鳥が飛び立った。三人は、途中、みくりが池で裸になり温泉に入った。


さくらが東京へ帰る石川一歩を富山駅の改札口で送った。

「私も、十一月から授業に出るわよ。戸山高校で会いましょう」
「うん、そうだね。さくら君のお父さんが勧めてくれた海自の東京音楽隊に入れるようにトランペットを練習するよ。学校に戻って卒業するよ」

石川一歩が白い歯を見せて笑った。勝気で男っぽい、高峰さくらが涙ぐんでいた。

「それなら,護衛艦おおなみの出航式で会えるわね?」
「出航って、ウエーブの初航海はどこへ行くの?」
「ロシアのウラジオストックってお父さんが言ってた」
「ボクも、海上自衛官になる。六ヶ月の訓練の後だから、来年の九月かな?」
「一歩君、その髪の毛、切られるわよ。でも、制帽が似合うわ」
「ハハハ」

そのとき、ピンポンパンとチャイムが鳴った。

――一〇時五〇分発、東京行き上り、新幹線つるぎ706号が間もなく一四番線に到着致します。停車時間は三分ですので、お乗りのお客様はお急ぎください。

石川一歩が高峰さくらの肩を抱いた。さくらが両手で一歩を抱きしめた。それを松雄が見ていた。

―完ー
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