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管理人は、アメリカ南部・ルイジアナ住人、伊勢平次郎(81)です。
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02/27
連載小説 「垂直の壁」 その4


「佐々成政(さっさ なりまさ)をさくら君はどう思う?」
黙って歩いていた石川一歩が突然、高峰さくらに聞いた。三年間、クチを聞かなかったふたりの同級生は環境がそうするのか急接近していた。「さくら君、一歩君」と呼ぶようになっていた。リュックを背負ったふたりが五箇山をハイキングしていた。秋の高原の空気は涼しかった。色とりどりのコスモスが風に揺れていた。栗の木が実を着けていた。檜に停まったツクツクボウシが鳴いていた。音に敏感な一歩の頬が緩んだ。
「どうって?」
「いや、懸賞小説を書こうと思ってね。劇画を読んでて、この佐々成政を考え着いただけなんだ」
「私のご先祖が成政公の馬廻り衆だったのよ。私、成政があまり好きじゃないのよ」
「どうして?富山の領主だったんだけど?」
「成政は名古屋の人だし、信長に重宝な武将だったって言うけど、結局、秀吉に反抗して戦に負け、首をはねられるところを懇願して免れ、この富山の領地も取られてしまったってお父さんが言ってたわ。戦国時代ってヨーロッパにもあったし、小説の主人公に値しないと思うのよ」
「ふ~ん、富山県の遺産だけど、成政は関係ないか?それよりも、ふたりで劔岳か白馬(しろうま)岳に登らない?」
「う~ん、今回は無理かもね。私ね、海上自衛隊の講習を受けるの」
「へえ~?どうして」
「ウエーブって知ってる?海上自衛官になるの」
「あれ?教員になるんじゃなかったの?」
「私、性格がガサツだし、体育型だしね、セーラーの方が自分に向いていると自覚したのよ。一歩君はどうするの?」
「いやあ、ボクも中学校の国語の教員を考えて入ったんだけど、自分は陰気だから生徒に好かれないと思う」
「一歩君、あなた、それほど陰気じゃないわよ。ガーリーだけど、日焼けしてるし。東京にはいくらでも仕事があるわよ」
「親父が怒るだろうな」
「一歩君のお父さん何してるの?」
「浅草の路上でトランペット吹いてる」
「まあ、ミュージシャンなのね?」
「いや、大道芸人さ」
「一歩君のお母さんは?」

一歩が、自分の母親が一歩が小学六年生のときに自殺したと話した。さくらが沈黙した。家に戻ると松雄が大斧を振るって、ナラの木の幹を割っていた。一歩が上半身裸になると、薪をリヤカーに積んで納屋に持って行った。さくらも妹も手伝った。松雄が、手斧を持ってきて、一歩に薪木の作り方を教えた。ヒグラシが鳴いていた。山岳地帯は陽が沈むのが早い。夕闇が迫った頃、作業を終えた。これが五箇山の冬支度であった。

             続く
02/26
連載小説 「垂直の壁」 その3


十月に入ると、高峰さくらも一ヶ月の休学届を出した。高峰さくらが同級生の石川一歩が北陸新幹線富山駅の改札を出るのを見た。
「あら、石川君じゃない?、どうして富山に来たの?」
一歩は、登山服、登山靴、そしてチロルの登山帽子を被っていた。黒縁の丸い眼鏡と長髪を輪ゴムでポニーテールに結んでいる以外は、なかなか男前である。
「あれ?高峰君は富山の人なの?」
「そうよ。あなたの故郷はどこなの?」
「東京の浅草駒形一丁目。隅田川のほとり」
もう少しで「どぶ川のほとり」と言いかけて口をつぐんだ。石川一歩の声には一種の悲しさがあった。夏休みになると田舎ヘ帰る同級生が羨ましかった。
「石川君が授業に出なくなったって、わかってたけど、どうして富山に来たの?」
「別に特別な理由はないんだけど、明治維新まで富山は陸の孤島だったって読んだとき、いつかは行ってみようと思ってた」
「あら、お父さんが来てくれたわ」
さくらが父の松雄を一歩に紹介した。高峰松雄が長髪を女の子のようにポニーテールにした高校生を見ていた。それに黒縁の眼鏡がジョン・レノンのように見えた。松雄が構えたのは、カネを掛けて東京の高校にやった娘が男ともだちと現れたからである。一歩が、松雄の眼を見てたじろいだ。
「あら、お父さんたら嫌ね。石川君は、私のボウイフレンドじゃないわよ。改札口で会ったのよ」とさくらが笑った。高峰松雄がほっとする様子が一歩に見えた。
「今夜、君は、どこに泊まるの?」
「氷見(ひみ)の民宿なんです」
「JRで氷見駅までちょっとだけど車で送ってあげよう」
「助かります。何しろ、富山は生まれて初めてなんです」
さくらが一歩に何日の旅程かと聞いた。
「あら、五日なのね?お父さん、石川君をうちに泊めてやって?」
「ああ、いいよ。でも都会育ちの君はびっくりするかな?」
駐車場にトヨタ・ランドクルーザーが停まっていた。車体がところどころ錆びていて、年式が相当古い。だが、タイヤが新しく、良く整備されているように見えた。さくらがリュックをトランクに投げ込むと助手席に乗った。さくらは、切れ長の目に、長い眉毛の北陸の日本女性である。豊かな黒髪を大人っぽく結い上げていたが、結構やることが荒っぽい。松雄が、ぽかんとしている一歩のリュックとピッケルを掴んでトランクに入れた。一歩がビニール製のサックを持って後部座席に座った。
「あら、石川君、釣り道具を持って来たの?今、イワナの季節よ」と振り返ったさくらが一歩に聞いた。
「いや、これ釣り道具じゃないんだ」
一歩が聞かれたくないかのように話を続けなかった。
「さくら、お父さん、北陸道に乗る前のインターチェンジで、コーヒーが飲みたいんだ」
「あ、ボクも飲みたいです」

松雄が運転するトヨタ・ランドクルーザーが富山市街を南へ走って北陸自動車道のICの駐車場で停まった。三人がコインで食券を買うと、コーヒーと生クリームがたっぷり盛られたストロベリーケーキを持ってブースに座った。一キロほど南に飛行場が見えた。その向こうに立山連峰が見える。赤い機体のエアバスが離陸して富山湾の方角に飛んで行った。
「石川君、あれね、富山きときと空港って言うのよ。あれは上海航空のエアバスよ」
「高峰君のおうちは何処にあるの?ボク、劔岳に登りたいんだ」
「劔岳?恐いわよ。五箇山白川郷って聞いたことある?こっちの方が安全よ」
「ゴカヤマ?」
さくらが一歩にマップを広げて見せた。
「ずいぶん、田舎だね?何があるの?」
「石川君、写真機持って来た?五箇山は世界遺産なのよ」
世界遺産と聞いた一歩が興味を持った。
「親父のペンタックスを借りてきた。十五万円したんだ。壊すなよって脅された」
さくらが笑った。一歩がペンタックスを取り出すと南の立山連峰をパノラマモードで撮った。三人が車に乗って北陸自動車道を西へ向かった。十五分も走ったかと思うと、小矢部栃波ジャンクションに着いた。そこから東海北陸自動車道を南へ走った。さくらの父親は観光バスの運転手のように規則を守った。一歩が、速度違反で常に東京地検に呼び出される父親を想った。左手に高い峰が見えた。
「あれね、高清水山っていうのよ。このあたりは温泉が多く湧き出ているのよ」
「野天風呂もあるの?」
「あるけど、登山家が利用するだけ。辺鄙な場所にあるから」
「石川君は、登山が好きなの?」
一歩が遠くを見る目になっていた。一歩は、自分でも富山を選んだ理由が分からなかった。登山雑誌で劔岳の写真を見たとき、この山が自分の死に場所ではないかと思ったのである。石川一歩が着々と自殺を準備していた。
「好きっていうか、山に登ると元気が出るから」
一歩が嘘を付いた。
「あら、そうだったの?」
「高峰君の部活は何?」
「カッター部よ。利根川にカッターを降ろして八人で櫓を漕ぐのよ」
「ええ~?江戸っ子のボクが山で、富山生まれの君は川なのか?」
「私ね、川や海が好きなの」
五箇山の標識があった。富山駅から五箇山まで所要時間は四二分だった。富山市まで通勤できる距離である。松雄が五箇山総合案内所の前でランドクルーザーを停めた。三人が案内所へ入った。受付の初老の男が立上がった。
「あっ、高峰大将、今日はお休みなんですか?」
「田中さん、大将はいかん。ただの自衛官や」
「高峰君、お父さん、自衛官なの?」
「そうなのよ。一度、退職したんだけど、音楽隊の指揮者なのよ」
一歩の眼が輝いた。その音楽隊の指揮者がパンフレットを選んでいた。
「高峰君、音楽隊の話しを聞きたいな」
「日曜日に海王丸パークの魁皇岸壁で演奏があるわ。行きたい?」
「是非、、ボク、ブラスバンドが大好きなんだ」

高峰家は旧家である。合掌造りの大きな家だった。勾配の急な藁ぶき屋根から雪深い山村だと一歩にも判った。
「さあ、遠慮なく入りなさい」と松雄が言った。土間に入ると意外に涼しかった。
「いらっしゃい」と声がした。さくらの母親である。さくらの妹が挨拶した。目がクリクリした中学生である。
「お父さん、魚、買ってきた?」
「ああ、駅前の魚富でアゴとアカダイ買ってきたよ」
アゴというのは、日本海の夏の魚であるツクシトビウオのことである。
「石川君、トトボチって言うんだけど、トビウオのすり身なのよ。お父さんの晩酌の肴なのよ。アカダイは、味噌焼きが美味しいわよ。五箇山の人たちは焼き魚が好きなの」
「ボクもその方がいい。でも、そのトトボチを食べたいな」
「ハハハ、君は酒飲めるのか?」
「はあ?」
松雄が心を読まれまいと警戒する一歩に陰気なものを感じた。

             続く
02/26
連載小説 「垂直の壁」 その2


九月九日、隅田公園で菊の品評会があった。ピクニックの季節である。一歩が銀杏の木の下で楽しそうに重箱を開けている四人の親子を見ていた。母親が小学生の息子の口に稲荷寿司を入れるのを見た。そのとき、ふと、自分にも精神病があるんじゃないか?と思った。家へ帰って、精神内科医をグーグルで探した。どうも心療内科医と言うらしい。

「石川君は、自殺したくなったことがあるの?」
医師が一歩の心の中を読むかのように眼を見つめた。一歩が俯いた。数秒が経った。
「何度もあります。何とも言えないほど気力が落ちて、何日も寝られないんです。ようやく眠ったと思うと、古井戸に落ちて行く自分を夢に見るんです。目が覚めると汗をびっしょり、かいているんです」
「日本ではね、一年に三万人もの自殺者が出る。日本は自殺大国なんだよ。高齢者の自殺の多くは病苦が原因なんだが、若者の自殺の原因は、自分のアイデンティティが分からないことなんだ。精神医学会では、アイデンティティ・クライシスという」
一歩は、自分にもその傾向があると思った。
「ちょっと、説明しよう。若い警察官がピストル自殺したというニュースが流れた。顔写真を見てやっぱりと思った。自殺する人の多くは世間の評価を気にする人なんです。――自分は誰にも愛されていない、、職場でも、家庭でも自分は嫌われている、、社会の評価がアイデンティティーというわけです。しかし、人間、すべての人から良い評価を得ることは不可能です。この警察官が追い詰められたのも、やはり世間体ではないかな?それなら、世間体さえ捨てれば、いいんです。つまり、世間の評価で自分の価値を決めることをやめれば、自殺しなくてもよかったのではないだろうか?世間体で生きるということは、「他人の山」を登る生き方です。「他人の山」で人生が終わってしまうのは寂しいことです。君に忠告を上げよう。自分の価値を何を基準に決めているのか。本当の価値はどこからくるのかということを考えて欲しい」
一歩が母親が自殺したことを話した。
「そうなの?でもね、お母さんの自殺は君には関係ない。結びつけてはいけない。人は親子でもね、夫々なんだよ」

医師が一歩に精神安定剤をくれた。抗うつ剤ともいう睡眠薬である。一歩が睡眠薬の瓶を手に握った。そして、相談に来てよかったと思った。だが問題が残った。一体、自分が生まれてきた価値って何なのか?一歩は、自分は、結局、負の力に負けるんじゃないかと恐れた。そこで、学校に心療内科医の診断書を提出して休学することにした。つまり、石川一歩は大学進学を断念したのである。

             続く
02/25
連載小説 「垂直の壁」 その1
垂直の壁


「先生、おはようございます」
生徒が立ち上がって教師に挨拶をした。
「はい、おはよう。今年も重陽の節句がやって来る。中国では、この日は古くから山に登って菊花酒を飲む習慣がある。杜甫の詩、登高のテーマになっている。石川君、読んでくれないか?」
石川一歩は、東京都立戸山高校の三年生である。夏休みが終わって二学期が始った。戸山高校は大学進学校である。漢文の授業に出る学生は、文科系の大学を目指す学生で授業を受ける学生の数はまばらだった。石川一歩もその一人であった。一歩は立ち上がると四方に頭を下げた。一歩は黒縁の丸い眼鏡をかけ長髪を後ろで束ねて結んでいた。一見、ガーリッシュに見えるのだが、日焼けしており、よく見ると理知的な風貌である。

風急に天高くして 猿嘯(えんせう)哀し
渚清く 沙(すな)白くして 鳥飛び廻(めぐ)る
無辺の落木は蕭蕭(せうせう)として下り
不尽(ふじん)の長江は袞袞(こんこん)として来たる
万里悲秋 常に客と作り
百年多病 独り台に登る
艱難(かんなん)苦(はなは)だ恨む繁霜の鬢(びん)
潦倒(ろうとう)新たに停む濁酒の杯

「うん、石川君は漢詩の成績が抜群だ。詩の心を持つということは、感性が高いということだ。それを一生、大事にして欲しい。君は教育大学を志望しているんだね?良い教員になると思う」

だが、石川一歩は悩んでいたのである。一歩は受験勉強をほとんどやっていなかった。ヘルマンヘッセの長編である「車輪の下」を昼夜を分かたず読み耽った。一歩は周りに誰も支えてくれる人がいない神学生のハンスに自分を見た。ハンスを圧し潰した車輪が人間の社会であると共感していた。一歩は鬱病を持っていた。鬱に対抗するために山に登った。三枚重ねの登山服を着て、底のごつい登山靴を履き、リュックを背負って家を出た。父親は、一歩が母親に似て陰気な性格なので、「山に行く」と言って玄関を出て行くとほっとした。そういうわけで、一歩は、夏休みを、ほとんど山歩きとヘッセを読むことに使ってしまった。南アルプスを八日間で縦走し、「人食い山」と言われる谷川岳にも単独で挑戦した。一歩は、滑落事故で死ぬなら、それでもいいと思っていた。だが、死ななかった。今度は、冬の北アルプスを縦走してみようと考えていた。厳冬登山なら、登攀具、食糧、炊事・露営用具をすべて自分で担ぐわけだから、かなりの体力が必要である。一歩は、成育しきっていない自分の体力では確実に死ぬだろうと思っていた。一歩はそういう死に方を望んでいたのである。

一歩には孤独癖があった。あまりしゃべる性格ではなく、ジャズを聞いたり、西欧の文学書を読む青年だった。小学生だった一歩は母親に虐待を受けた。少年には、その理由が分からなかった。母親は自分の性格に似た一歩を嫌ったのである。一歩の母親はキリスト教系と思われる天国の門というカルトに入っていた。その母親が、一歩が中学一年生のときに自殺した。常磐線の駅のプラットホームから線路に身を投げて、入って来た電車に轢かれたのである。母親は精神科に通っていたと父親が言った。父親は、トランペット奏者なのだが、数人の仲間と路上でジャズを演奏して小銭を稼いで生活していた。まあまあの生活が出来たのは、母親の祖父が残した小さな遺産であった。
「それで、お前、大学へは行くんか?」
「わからない」
「行きたいのか?」
「あんまり」
「アホ、高卒じゃ高級取りにはなれん。お前、どうやってメシ食うんや?」
「東京は大都会、路上でトランペットを吹いても食える」
「一歩、俺みたいなグウタラになったらいかん。絶対、いかんぞ!」

続く

みなさん、隼速報はアメリカ事情のブログなんですが、撤退します。読者の方がそれなら小説を連載してくれと。伊勢が書いた短編を連載します。コピーはしないでね。伊勢
02/24
おごりが身を亡ぼす、、


意識はあると。3年前にも薬物服用で逮捕されて執行猶予一年だった。今回も検査されているが発表はまだない。ウッズは45歳。伊勢は16歳で運転免許証を取得。今年80歳。事故なし、違反なし。南アフリカ、イタリア、ドイツ、フランス、スペインをドライブした。日本でも事故なし。このプロゴルファーは何か問題を持っている。伊勢

隼速報を閉鎖する考えです、、

いつ閉鎖するかは決めていない。プライベイト・ライフに専心したいからです。日本人は核保有にネガテイブです。それも民意なら構う理由はない。伊勢
02/23
ピストル 終章
終章

天竜組の若頭、白神辰治は天竜軍を組織した。まず、与座牛一に密使を送った。次に、江戸川誠一に密使を送った。この二人のドンの参軍は必須なのだ。だが、二人から返事はなかった。

一方の武田平之助は天竜組の計画を読み抜いていた。水嶋が、与座牛一、トミー河岡、斉藤万歳山の三人を呼んだ。平之助は天竜組の大軍と戦えば武田一家は惨敗すると知っていた。だが、平之助は京子を取り戻す決心をしていた。
「水嶋若頭、たった五人では。ミナゴロシになるだけです。天竜川の縄張りを放棄することは出来ないんかな?」と与座が言った。
「出来ないよ」と水嶋が答えて与座を睨み据えた。改めて沖縄人は日本人ではないと思った。
「言うて置きますが、ウチナーグチは勝負の雲行きで寝返るんです」
――何を白々しいと平之助が思った。
「来たくなければ来んでも良い」と水嶋が引導を渡した。勿論、この場で殺されることを与座は知っていた。だが、絣の着物姿を着た与座は平然としていた。

夕闇が迫っていた。平之助と水嶋とトミーがトヨペットクラウンに乗り込んだ。与座と斉藤がやはりトヨペットに乗って続いた。その後ろに、浜本ら三人が乗ったトヨペットが続いた。
一時間後、平之助、水島、与座、トミーと斎藤の五人が吉田旅館に着いた。浜本が秋野刑事が部下六人と張っているのを見た。浜本は五人が殺されたら吉田旅館に火を着ける考えであった。
「まず、京子に合わせてください」と平之助が荒山大鉄に言った。京子がふすまを開けて出てきたが匕首を手に持った姐さん二人が付き添っていた。ハジキを持った二人の男が出てきた。江戸川誠一と雷魚だ。平之助は驚かなかった。
「平之助さん、簡単に血判を押してはダメよ」
「黙れ」と白神が怒鳴った。
「お坊ちゃん、天竜川をうちの組によこせ」と荒山が言った。ノ―を言わせない口調である。
「わかった。京子の命と引き換えです」
まず、荒山と白神が血判を押した。平之助と水嶋が血判を押した。白神が目配せすると姐さんが京子を開放した。平之助が京子の手を握った。そのとき、斉藤が匕首を抜いて軍鶏のように飛びこんで来た。動顛した江戸川誠一が引き金を引いたが当たらなかった。修羅場の拳銃に慣れていないのだ。白神辰治が腹を抑えて畳に転がった。子分が抜刀して出てきた。刀を振り上げて平之助を斬ろうとした。
「待て。そこを動くな」という声がした。トミーと与座が手榴弾を手に持っていた。荒山大鉄の背筋が凍った。平之助と水嶋と京子が後ろのふすまを開けて下がった。
「バーン」と凄い音がした。雷魚がコルト45スペシャルを撃ったのだ。銃弾は与座の絣の右袖を貫通した。だが与座が倒れない。雷魚が与座の右腕がないことに気が着いた。トミーが手榴弾のピンを抜いた。刀を持った子分らが悲鳴を上げて逃げた。荒山大鉄と腹を抑えた白神辰治、江戸川誠一と雷魚の四人が残った。硫黄島生き残りの与座牛一が左手で手榴弾を投げた。与座も左ギッチョなのだ。この二発の手榴弾が天竜組を滅ぼした。
「名古屋に戻ろう」とすべてを悟った秋野満月刑事が部下に言った。

「山中先生、復学させてください」
平之助と京子が山中教授の職員室にいた。
「武田君、暴力団の皇帝はいけない」と山中教授が平之助の目をじっと見た。
「先生、ご周知のように天竜組の組員は続々と投降して武田組が吸収しました。天竜組は暴力団でした。ボクは、甲斐グループを合法的な株式会社にしたいのです」
「それには年月がかかるよ。ヤクザが素直に社会人になるのか私には未知の世界なんだ。改革には流血も起きる。君の命も危険に曝されるだろう」
「それは覚悟しています。甲斐組を会社にすることが京子との結婚の条件ですから」

「お坊ちゃんが遠州浜松のドンになられた」と水嶋が親分衆に言った。遠州のドンとは甲斐組の首領と言うことである。正座していた直参の旗本たちが畳に手をついて平之助に深々と頭を下げた。そして顔を上げると平之助のことばを待った。
「親分衆のみなさま、遠路遥々、浜松まで足を運んでくださって、お礼のことばもない」と平之助が畳に手をついて礼を述べた。
「いえ、お手をお上げくだされ」と高知の大河内親分が言った。
「ご一同さん、ボクは武田一家を出ます」
親分衆がどよめいた。
「みなさん、ご心配は要りません。この水嶋が武田組の組長になります。ボクは甲斐組の顧問弁護士および取り締まり役になる。これからの時代は暴力団では生き残らない。親分衆を株主とする株式会社にする考えです」
親分衆はその理由がわかっていた。時代が変わったのだ。虎造親分を想って手で瞼を拭く者がいた。

「トミー、お前には武田組を出てもらう。お坊ちゃんには特攻上がりの浜本を付けた。だが、お前が武田組にいるのは好ましくない。何しろ米軍の手榴弾を投げたんだからね」
水嶋がトミーに熨斗の掛かった分厚いお祝儀袋を渡した。退職金である。トミーが頭を下げた。
「ごくろうだった。カネに困ったら俺に言え」

イクコがソニーのトランジスタラジオから流れるアロハオエに合わせて歌っていた。そこへトミーが戻ってきて一部始終をイクコに話した。
「トミー、クビになったの?」
「イクコ、クビになったんじゃなくて、武田一家から開放されたんだよ」
「仕事どうなるん?」と妊娠一か月と診断されたらイクコが心配顔になっていた。
「この浜松を出て遠くに行かないと平和に暮らせない」
「トミー、ハワイへ移民出来ない?」
「出来るよ、ボクが米国籍だから」
「アタイ、何でもするよ。でも、トミー、仕事どうする?」
「ワカバヤシさんのホテルで働くよ。水嶋さんに聞いてみる」

「今朝は清々しいなあ」と斉藤が妻に言った。斉藤万歳山、妻、娘の三人が癌センターに向かって歩いていた。西方に浜松城の天守閣が見えた。

看護婦が主治医の執務室に案内した。ドクターがニコニコと三人を迎えた。斉藤が首を傾げた。
「斉藤さん、不思議なことが起きている。癌が消えているんです」とレントゲン写真を手に持った主治医が驚くべきことを言った。妻と娘が声を出して泣き出した。人斬りが拳で瞼を拭った。

             完

皆さんの正直なご感想をください。伊勢
02/22
ピストル 第十六章
第十六章

五人が羽田に帰って来た。トミーは寒風の中でまだアロハシャツを着ていた。
「トミー、もういいよ。ふたりは浜松に帰りなさい。ボクらは横浜で一泊する。斉藤さんだけ付き合ってくれないか?」
トミーとイクコの夫婦と羽田で別れた。残った三人が横浜へ出た。横浜へ来た理由は四川料理である。三人が中華街の門をくぐった。珍珍楼という看板が見えた。
「まあ、面白い名前ね」
「ニイハオ、お坊ちゃん、ずいぶん日焼けしてお元気ネ」と辮髪の社長が出迎えた。平之助と面識があったのだ。理由は単純である。浜名湖のウナギを買ってくれるからである。
京子が、点心、鱶鰭の吸い物、チンゲン菜の油炒め、中華風伊勢海老を頼んだ。社長が紹興酒を持ってきた。平之助が斉藤の盃に注いだ。
社長が取ってくれた海岸通りのホテルに泊まった。平之助が京子を抱いた。
「ねえ、私が恋しい平之助さん、何とか甲斐組を離れることは出来ないの?」
「今は出来ない。でも、君と結婚したら個人に戻る」
京子が電話を取って父親に無事に帰ったと報告した。京子は、幼少のときに母親を失ってパパに育てられた。そのパパは、自分のたったひとりの娘が甲斐組の武田平之助と結ばれることを憂いていた。
平之助が若頭の水嶋に電話を掛けた。水嶋は、五人のハワイの行動を逐一知っていた。その秘密はワカバヤシだろう。
「お坊ちゃん、ご無事で何より。明日、来られる親分衆は旗本です。夕刻までにお帰りください」

平之助と斉藤が京子と別れて浜松で汽車を降りた。日の丸が目に飛び込んできた。門松が家々の門に飾られている。商家の旦那が平之助に挨拶した。平之助はすっかり武田組の組長に戻っていた。

与座牛一がトミーを伴って武田一家の玄関をくぐった。関西以南の親分衆に新年の挨拶をした。旗本は四人だった。平之助が江戸川誠一と倅の雷魚を見て驚いた。
――水嶋はどうして関東を取り仕切るこの親子を招いたのだろうか?トミーが歌舞伎の女形のような雷魚を見ていた。
お屠蘇に始まり手締めで宴会が終わった。親分衆は翌朝立った。江戸川親子も潮来へ帰って行った。
「若頭、なぜ江戸川を呼んだの?」
「与座と江戸川の反応を観察したかったのです」
「それで?」
「わからんです。トミーにお返し役を頼みました」
お返しとは親分衆が寄進した上納金へのお返しなのである。
トミーが潮来へ行った。江戸川誠一に鼻の短いコルト45スペシャルをお返しの品に持ってきた。
「ワシ、これが欲しかった」と江戸川が笑った。そして雷魚に耳打ちした。
「これを武田のお坊ちゃんに差し上げる」
ビロードの布を広げていると銃口が縦二連のデリンジャーである。 22口径である。

正月が終わった六日の朝、名古屋市警の秋野満月刑事から電話があった。秋野が、長谷川京子が誘拐されたと言った。平之助が最も恐れることが起きた。
「武田さん、浚ったのは天竜組だとほぼ確実です。ただ、京子さんの居場所が判らない。踏み込むことも出来ないのです」
「いや、踏み込まないでください。京子の命が危ないからです」
「必ず、天竜組からコンタクトがある。それを待ちましょう」
正月の九日、そのコンタクトがきた。
――俺は三島という者だ。白神若頭の補佐だ。お前、ひとりで来い。住所はここだ。警察に知らせれば京子を輪姦すると天竜市の料亭の名前が書いてあった。
平之助は水嶋に話した。一人で出かけた。秋野刑事と新米の刑事が尾行した。与座と兵隊が尾行した。トミーが尾行した、、斉藤が続いた、、
料亭では三島一人が待っていた。
「天竜組の荒山組長は手打ちを望んでいる。天竜組は亀沼一家の亀沼鉄二が斉藤万歳山に切られた。大番頭と小番頭が誰かに撃たれた。これ以上の被害を出すことは出来ない」
「和平の条件は何だ?」
平之助の語調が荒くなっていた。
「抗争以前の天竜川のシラス漁の縄張りに戻る。それだけだ」
「条件がある。シラス掬いの組員は同数。獲った稚魚は一つの桶に入れる。それを半分に割る」と平之助がカウンターオファーした。
「それは不可能だ」
「ま、そう言うだろうと思っていた」
「和平同意書に血判を押すなら京子を返す」
「京子の身が安全なのか彼女に電話をかけさせろ」
「わかった」
五分後、電話が鳴った。
「平之助さん、入れ墨入れた姐さん二人に監視されているけど私は大丈夫よ」
「京子さん、もう二、三日我慢してください。ボクが必ず、迎えに行きます」
それで日本橋の会談は終わった。二日後、伝令がやって来た。
――署名、血判を荒山大鉄組長本人と白神若頭が行う。武田組はお前と水嶋若頭が来い。場所は掛川市大井川の吉田旅館だ。日時、正月十一日、夜の十二時である。

             次回は終章です。伊勢
02/21
ピストル 第十五章
第十五章

「お坊ちゃん、正月が終わるまで戦(いくさ)はないでしょう。うちも全国から親分衆が新年の挨拶にやってきやす」
「そうだね。それがヤクザのしきたりだからね」
「そのように幹部に伝えます。狙撃事件を新聞記事で読んで親分衆も動揺しております」
「水嶋、甲斐組がこんなに大きいとはボクは知らなかったんだ。その頂点に武田一家がいる、、ボクの責任は重い」
「お父様がお坊ちゃんをヤクザにしたくなかったんです」
「あらゆる手段を以って、天竜組に勝たなければならない。生きるか死ぬかだ。これがパパの生涯だったんだ」
「ヤクザはヤクザで死ぬ他ないのです」
「京子に会いたいんだが、無理かな?」
「いえ、休戦を白神が知らせてきましたから、関西以南に行ってくだされ」
「水嶋、ボクは京子を妻にする。海外に逃げたいぐらいだよ」と平之助が笑った。
「お坊ちゃん、トミーと斉藤がお供します」
「それは有難い。あの江戸川雷魚は好かん。向こうも同じだろう」
平之助がカミュウの話をした。水嶋が何かを考えていた。

二人とガードは師走から一週間、ハワイへ行くことにした。
「まあ、平之助さん、嬉しいわ」と電話口に出た京子が言った。
「京子さんのビキニを見たいから」と平之助が笑った。そして、ガードはトミーと斉藤だと伝えた。
「その斉藤さんって剣術使いでしょ?」
「そうだけど、ハワイに村正を持って行かないよ」
「私、トミーは好きだけど、最近、結婚したんでしょ?」
「うん、いいカミさんだよ。武田一家のヤクザもイクコ姐さんと呼んでいる」
京子が自分も姐さんと呼ばれるのかと一瞬だが、憂鬱になった。

「ねえ、イクコ、ボクさ、お坊ちゃんと五日間だけどハワイへ行けと若頭から命令されたよ」
「ふ~ん」
「イクコを置いて行くのがつらいよ」
「じゃあ、アタイも連れてって」
「うん、聞いてみる」
平之助は二の返事でOKを出した。斉藤が笑っていた。

十二月の歳末の夕方、五人が羽田からアメリカン航空のDC8に乗った。トミーを除いて他の四人は初めて日本を出るのだ。乗客は香港からきたアメリカ人ばかりである。スチュワデスが一番後ろの席に案内した。右に京子と平之助。左に三席がある。イクコとトミーと斉藤が座った。窓際に女性たちが座ったのである。トミーと京子がカメラを持っていた。平之助と斉藤はアメリカ製のカメラを買うつもりだった。
飛び立ってから間もなく夜が明けた。機内のサービスは、サルスベリービーフステーキ~コーヒー~チョコレートなどで京子とイクコが騒いでいた。ふたりはすぐ仲良くなった。トミーが安堵した。平之助が英語のオアフ島ガイドを読んでいた。トミーがトイレのドアの前でアメリカ人と話していた。斉藤は後藤又兵衛豪傑伝を読んでいた。ウエーキ島で軍人を拾ってホノルルに着いた。朝の十時である。十二月なのに気温が二〇度ある。バスでワイキキのホテルに行ってチェックインした。トミーが通訳なのだ。トミーがフロントの白人の女性にジョークを言ったのか女性が笑った。イクコがトミーを誇りに思った。
――トミーはアタイと同じ、学校も碌に出ていないけどアタマがいいわ、、
部屋で着替えた。早速ワイキキの浜辺にタオルを持って行った。やはり京子のビキニは眩しかった。イクコもなかなかの肢体である。トミーと斉藤の筋肉をアメリカ人のこどもたちが見ていた。トミーが右腕を曲げて瘤を作るとこどもたちがどっと笑った。
平之助が京子を誘って青い海に飛び込んだ。波が砂浜に打ち寄せては沖に退いて行った。
「トミー、泳ごうよ」とイクコがトミーの手を引っ張った。斉藤は抜き手をきって沖を泳いでいた。
夕方になった。京屋というホテルに和食があることが判った。トミーがハワイ牛のすき焼きを食べたいというとみんな賛成した。斉藤は無口だが目が笑っている。京子はこの恐ろしいはずの剣術使いが好きになった。その後、ホテルへ戻って寝ることにした。潮騒が聞こえた。軽い疲れが心地好かった。

翌朝、ホテルが用意したシボレーで島を一周した。派手なアロハシャツを着たトミーがハンドルの右横に着いている変速機のレバーや速度計を見ていた。ドライバーがラジオをつけた。アロハオエが流れた。
「平之助さん、私、こんなにハッピーなことは今までになかったわ。終戦から十年で世界が変わったのね」
「そう、だから平和ほど大事なモノはないんだね」
「トミー、凄い自動車だねえ」と斉藤が言った。
「ボクも、スチュードベーカーが欲しいよ」
「そんなもん乗り回すとヤクザと思われるよ」と斉藤は、自分はヤクザではないとクリカラモンモンの組員を嫌っていた。
「斎藤さん、トミーはヤクザじゃない」と平之助が言った。ソバカスのイクコが手を叩いて喜んだ。そのイクコの腰をトミーが抱いた。
ドライバーは日系ハワイアンである。一行がパンチボールの丘を登って行った。442日系二世歩兵連隊の墓所である。
「みんな二十代の若者なのね」
「日本兵も同じだよ」
弁護士を目指すふたりが話していた。斉藤が手を合わせて目を瞑るのを見た。
「サンキュウ」と二世のドライバーが言った。
そこからヌアヌパリ峠の展望台へ行った。オアフ島の東海岸が見えた。バナナの密林、パパイヤの畑、カネオヘ米海兵隊基地、、カメハメハ大王の戦勝記念碑が岩に張ってある。
――敵愾心を持つ奴はこの崖から落とした。恭順する奴はキープしたと刻んであった。
「日本軍の飛行部隊はこのヌアヌパリ峠の上を越えて真珠湾を攻撃したんですよ」とドライバーが言った。何だか誇りを持っている響きがあった。
ヌアヌパリ峠を東に下って海岸を北へ走った。左に険しい崖が続いた。コウラウ山脈である。ライオンの爪という滝で泳いだ。斉藤が越中フンドシで泳いでいた。再び、北へ向かった。カフク岬に向かっている。
「ねえ、トミー、おなか空いた?」
「何かいい匂いがするよね」
道路の傍に煙が充ちている。
「フリフリチキンよ。食べる?」とドライバーが言ってシボレーを停めた。車を降りて見に行くと、カナカ人の大男が百羽ほどの鶏を鉄の炉の上に並べて焼いていた。三羽買って鉈でぶつ切りにしてもらった。
傍の公園にピクニックテーブルがあった。
「マンゴーの味がするわ」と京子が平之助の口に鶏の胸肉を入れた。
「美味しいね」とイクコが腿肉をトミーの口に入れた。斉藤は黙々と手羽を齧っていた。
北の海岸を通って、ハレイワで左折した。ドールフルーツ缶詰のパイナップル畑が広がっている。
「平之助さん、降りたいわ」
「うん、パイナップル食べよう」
お土産にパイナップルの缶詰めを三〇缶も買った。グアバジュースという不思議な味のするジュースにさすがの剣術使いも朗らかになっていた。
「こういう美味いもん飲んでたら、酒は要らんわなあ」
「斉藤さん、地球には、こんなところがあるのね」と京子が初めて斉藤に話しかけた。赤、青、黄色のシロップがかかったかき氷をスプーンで掬っていたイクコが頷いていた。
「真珠湾を見学する?」とドライバーがトミーに訊いた。
「明後日の出発時間は昼だから、空港へ行く前に見よう」と平之助が答えた。
「生のハワイアンを聞きたいわ」
「あっそうか、じゃあ、そこで夕食だ」
「ハワイの食べ物ですが、想い出になりますよ」
ドライバーがダイアモンドヘッドに向かった。途中で京子とイクコが、ムウムウを買った。
野外音楽場に着いた。京子とイクコがお手洗いで着替えた。ステージに面していないが円卓に純白のテーブルクロスが掛けてあった。京子とイクコが歩いてきた。アメリカ人の観光客が振り返った。京子はハイビスカスの模様の青いムウムウ。イクコはプルメリアの模様の赤いムウムウ。斉藤までが目を見張った。
「イクコ、また惚れちゃうぞう」
イクコのもの凄い色気があたりを圧倒した。
「京子さん、カピオラニ女王に見えるね」
「まあ、平之助さん、お世辞を言って何か欲しいの?」と京子がほほ笑んだ。
真っ赤な夕日が水平線に沈んで行った。ドラムが鳴り出した。ステージいっぱいにフラガールが手足を動かして腰を振った。
「わたしたちも一日で日焼けしたわね」
「アタイさあ、土人に見えない?」
――今夜はイクコを寝かせないぞ、、
ウエイトレスがやってきて二人の胸にホワイトジンジャーのブローチを付けた。黒髪に黄色いハイビスカスが似合った。
「平之助さん、あなたは、明日、何をしたいの?」
「ここはアメリカ。ご婦人優先です。ボクは何でも付き合います」と平之助が笑った。
「それじゃ、アタイ、ヨットに乗りたい」とイクコがみんなを驚かした。
「いいアイデアだね」と斉藤が言ったのでこれまた、みんなを驚かした。
「ボクがホテルに訊いてみる」とトミーの胸がワクワクしていた。

ホテルのワカバヤシ社長は武田平之助が任侠甲斐組の跡取りだと知らされていた。そこで、自分の持っているヨットに招待した。
白い船体、白い帆、十六メートルのスループを見た五人がその豪華さに目を見張った。ワカバヤシ社長が船長、セイラ―二人のクイーン・イリオカラニ号がホノルルの港からダイアモンドヘッドに向かった。ホノルルを出ると海の色がエメラルドグリーンに変わった。京子と平之助がボウに座った。京子が海面を見ていた。何かが船底を横切った。オオウミガメだ。
「日本が戦争をした国に見えないなあ」と斉藤がいうのを平之助が聞いた。人斬りは自分が死病に 取り憑かれていることをすっかり忘れていた。
ココヘッドの埠頭にスループを繋いで、バーべキュウを食べに行った。ワカバヤシがピンクの魚を買っていた。カツオぐらいのサイズで魚体がスマートである。
「オパカパカと言うんです。鯛の一種で、ローカルで一番おいしい魚ヨ」
セイラ―がマグロを買っていた。トミーが見に行くと鹿児島でも獲れるメバチだった。
「ぶつ切りにしてポキを作るよ」
みんな日焼けしてホテルに戻った。
「夕食は八時です。ホテルの招待です」とワカバヤシが言った。
平之助と京子が部屋に戻ってふたり一緒にシャワーを浴びた。平之助のペニスが京子の下腹に当たった。
結局、真珠湾には行かなかった。ワカバヤシがヤメトケと言ったからである。そこで、トミーの提案で飛行場に行く前にビショップ博物館へ行った。イクコが火炎樹に目を奪われた。昭和五十六年酉年の正月の三日であった。

             続く
02/20
ピストル 第十四章
第十四章

「イクコ、この家を買ったよ」
「ええ~?」
「ボクとイクコは子供をウンと産むと思う。こんな家でもスタートだからさ」
イクコの目が潤んだ。
「アタイ、子供が好きなの」
ふたりがもの凄いキッスをやり始めた。朝っぱらから布団でレスリングが始まった。三回戦が終了した。トミーが絞ったタオルを持ってきた。
「トミー、アイラブユウ」
「イクコ、アイラブユウ」

翌日の午後、与座組の渡嘉敷がトヨペットクラウンでトミーを迎えに来た。ふたりとも迷彩色の兵隊の服を着ていた。ふたりは天竜川ではなく、大井川に向かった。後ろの席に座ったトミーが有坂を点検した。傷がないか注意深く弾を五発選んで装填した。ボルトを引いてみた。銃座の三脚を固定して試した。ハンドルを回した。すべてOKのようである。狙撃は最初の一発で成否が決まるものである。
「コーヒーを飲みたいな」
「インスタントなら魔法瓶にありますぜ」
「いや、フレンチ・コーヒーさ」
トミーはすっかりヤクザになっていた。殺人に向かう日でも普通の日なのである。
ふたりは大井川の川下の町、吉田へ向かっていた。浜松から一時間である。
「なぜ、大井川なんかな?」とトミーがミルクコーヒーを啜りながら渡嘉敷に訊いた。
「天竜川は漁場を分け合っているけど、大井川は天竜組の縄張りなんですよ」
「ええ~?そんじゃ、行く理由がないじゃないか?」
「いや、一発、ぶちこんでやれと与座組長の命令ですからね」
「ええ~?今日はクリスマス・イブだよ」
「ヤクザにクリスマスもひったくれもねえのよ」
ひどい話だとトミーが思った。

吉田に着いた。曇天で相模湾から吹く風が強かった。腕時計を見ると、午後の三時である。玄関に迎えに出た吉田旅館の亭主が迷彩服のふたりを見て米兵かと思った。ふたりが米陸軍の編み上げ靴の紐を解いて脱いだ。旅館の亭主が不思議な顔をしていた。部屋に来た女中に鰻重とビールを注文した。浜名湖産と違う味がした。ダントツに美味かった。鰻の締め方が違うと渡嘉敷が言った。有坂の入った革のケースを床の間の柱に立てかけた。それから布団を押し入れから出して寝た。

ふたりは、夜の八時に起きた。編み上げ靴を履いて外に出ると真っ暗闇である。トミーは来た時と同じように後席に座った。二人は話をしなかった。十分で大井川の河口に着いた。大井川は天竜川の半分の幅である。その上に川が幾筋にも分かれている。水深も浅いと渡嘉敷が言った。大井川はシラスよりも、しらす魚と桜エビがよく取れると渡嘉敷が解説した。河口のあちこちにハロゲンランプの光が見えた。背筋が寒くなる行燈の世界である。
「この真っ暗闇では誰が誰やかも判らん」
「トミー、番頭は判るよ。頭に炭鉱夫のランプを点けた奴だよ」
「ああ、いるな。中州の向こう岸にふたりおるわ」
「八〇〇メートルあるね」
トミーが照準メガネを見て言った。トミーはすっかり狙撃兵に戻っていた。岩の上に腹這いになった。銃座を付けてハンドルで角度を調整した。渡嘉敷が兵隊はヤクザと違うとトミーを尊敬した。これが強い者に惹かれるヤクザの性格なのである。
大番頭が煙草をくわえてライターで火を着けた。
「ポ~ン」
男のクチから煙草が落ちるのが見えた。前に倒れた。カンテラを持って立っていた横の男が驚いて走り出した。
「ポ~ン」
これも前に倒れた。二人の人間がいとも簡単に死んだ。渡嘉敷が呆然としていた。
「兄弟、行こか?」

天竜組は警察に知らせなかった。トヨペットは検問に引っかからず戻った。白神辰治が報告を受けて呆然とした。白神は虎造のいない武田一家は頭を切り落とされた鶏だと言っていたのである。武田平之助を見直した。そして幹部を招集した。だが、狙撃したのは誰だろうと白神辰治が生まれて初めて神経質になっていた。
「辰治、水嶋は頭のいい男だ。なめていては負ける」と組長の荒山大鉄が言うと白神が珍しく眉をひそめた。
「うちの狙撃兵は平之助を撃ち損じた。むこうのほうが射撃の腕が上だ」と荒山が白神を睨んだ。
「段々、荒神山になってきましたね」と若頭補佐が言った。白神が子分を睨んだ。
「一気に大軍で押し寄せるのがいいが、それでは機動隊が出てくる。辰治、お前の考えを言え」
「あの長谷川京子という女を浚いましょう」
「浚ってどうする?」
「和平を持ちかける考えです」
「よし、それしかない。いつ、その女を浚う?」
「組長、正月が終わるまで動けませんぜ。全国から親分衆が新年の祝賀にやってきますんで」

             続く
02/19
ピストル 第十三章
第十三章

浜松にもクリスマスの季節がやってきた。商店街ではスピーカーからジングルベルが四六時中流れていた。平之助が関東の親分衆を一堂に集めた。与座を傍聴人に呼んだ。
「一月に入ると天竜組が攻めてくる。若頭はどうお考えか?」と倅の雷魚を伴った江戸川誠一が質問した。
「江戸川さん、ワシはタイミングを探っている」
「そのタイミングと作戦を聞かせてくれんか?」
「ワシからは言えない。お坊ちゃんが話すが今日ではない」
水嶋は関東のボスである江戸川といえども警戒を解かなかった。その注意深さは。ヤクザ歴が長いからである。さらに他の小組はみんな江戸川の支配下にあった。その理由は経済である。一方で関西以南の親分衆は、のんびりとしており現在の状態に満足している。それだけに戦(いくさ)には役に立たないのである。
「いくさのスケジュールは、親分さん方に密使を送ります。一月の末か二月かと考えています。その時期を決めるのは天竜組の動きに依るからです。今、そのような動きは見られません」と平之助が言うと親分衆が安堵のため息をついた。まだ和平交渉の余地があるからだ。
水嶋が各組に軍事資金を手渡した。江戸川が封筒を開けてびっくりした顔になった。大金だったからである。
「いくさがなくても返す必要はない」と水嶋が言った。その日の午後、宴会をやり、日暮れに親分衆は帰途に就いた。
「与座組長、どう見たか?」
「若頭、どれも迷っております」
「万歳さん、どう見たか?」
「水嶋さん、与座組長と同じです」
「警戒に越したことはないということだね?」
「その通りでありやす」とふたりが同時に言った。

翌日、トミーが写真を持ってきた。会議に出た親分衆を隠し窓からニコンで撮ったのである。写真のほとんどが親分衆の表情であった。膝に手を当てて畏まっている者、顎に手を当てて思案する者、腕を組んで目を瞑っていたのは江戸川誠一だけであった。目を一番多く動かしていたのは与座であった。
「お坊ちゃん、江戸川は大丈夫でしょう。甲斐組が江戸川養鰻合資会社の筆頭株主だからね」と水嶋が言った。
「斉藤、与座の動きを観察してくれないか?」と平之助が人斬りに頼んだ。
「私は顔を知られていますが」
「う~む、そうだね。それじゃあ、トミーならどうかな?」
「引き受けます。ただ、斉藤さんと組みたいのです」
「いいよ」
この時点の平之助も水嶋も鉄砲玉たちも不確実な未来に不安を持った。すると、斉藤がゴホンと咳をした。
「ご一同さん、お聞きください」
「斉藤、何か作戦があるのかね?」
「いえ、ありませんが武田組は勝てると思っています」
「ほう」
斉藤万歳山がゴホンと咳をすると語り始めた。
――戦国時代は日本全国で起きたと言えますが、尾張、三河、遠江、駿河における甲斐の武田、三河の徳川、尾張の信長のいくさのことです。したがって、戦国大名三傑とはこの三人のことなのです。秀吉が入らないわけですが、秀吉は信長を継いだからであります。
斉藤が歴史の教師に戻っていた。
――浜松時代、徳川家康が最大の危機に面した。その危機とは野戦で日本最強を誇る武田信玄の襲来であります。家康は二十九歳。信玄は五十一歳。ちょうどお坊ちゃんと荒山大鉄の逆であります。三方ケ原(浜松市)の戦いでは、家康が大敗したことが知られております。ここが大事な点であります。信玄が大軍、約二万五千名の兵を率い、駿河を経由して国境線付近の要所である掛川を通り天竜川まで進んだのです。家康が立て籠もる浜松城は目前だが、渡河せず北進して別動隊と合流しました。信玄軍は上流で天竜川を渡り浜松城へと近づいた。だが、そこで攻めることなく直前で引き返し、三河方面へと向かったと日本三傑史にあります。
「ほほう」と水嶋が斉藤の博学に感心していた。
――浜松の家康軍は齢三十八歳の信長の援軍を含めても一万ほどと劣勢だった。ここでは天竜組が大軍で武田組は劣勢であります。話を戻すと、若い家康は信玄軍の背後を襲えると思い、出撃を命じたのであります。ところが、老練な信玄は三方原で待ち伏せをしていたのです。罠に嵌まった家康は多くの臣下を討ち取られてしまい浜松城へ逃げ帰った。信玄は家康を追って浜松城を攻めずに三河へ進軍した。浜松城の代わりに野田城を攻略した。だが、信玄は体調を崩して甲府に引き返すことになったのであります。古巣へ帰る途中、信濃の駒場で死亡したと記録にあります。
「ここに疑問が残ります」
――東三河に拠点を築いた信玄は家康を追いつめながら、なぜ浜松城を落とそうとしなかったのか?信玄の南進の目的は岐阜城の織田信長を倒して京都に上洛するというのが常識です。
――どうも信玄は東三河にくさびを打つことが狙いだったようです。武田の別動隊は、長篠城や東三河の武士を家康から寝返らせることに成功していた。みなさん、同じように天竜組は甲斐組の配下にある組を寝返えらせる手に出ます。信玄と同じように浜松を制圧して、さらに東三河を制圧できれば荒山大鉄は浜松と岡崎の拠点を分断出来るからであります。
水嶋と平の助が息を飲んだ。トミーには何のことか皆目、分からなかった。
「また、ここで疑問が持ち上がります」
――信玄が病に倒れなければ南進作戦は成功し、家康は滅んでいたのだろうか?
――三方ケ原の戦いは劣勢の家康が大軍の信玄に挑むというイメージですが、実際は信長+家康連合軍のほうが信玄よりも圧倒的に兵力を保持していたのです。家康軍は浜松だけでなく、東三河の拠点の吉田や岡崎にも無傷の大軍が待機しており、尾張と美濃には織田軍が健在だったからであります。
「ただ、家康+信長対信玄という大決戦が起きた可能性がある。そのとき家康と信長は圧勝出来たのだろうか?」
水嶋、平之助、鉄砲玉たちは戦国時代の武将の知恵に驚いていた。

水嶋がトミーに与座牛一を監視するスパイを命じた。
トミーが岡崎へ行き与座組に草鞋を脱いだ。仁義がきれなかったが、前米兵だったと言うと納得した。沖縄が米軍に占領されているからである。
「なぜ、うちに来たのか?」と与座が訊いた。
「終戦直後、沖縄の米陸軍病院で働いたのです」
「ウチナーグチ(沖縄弁)がわかるんか?」
「わかります」
「うちの組員はきついよ」
「もう一度、聞くが、なぜ、うちを選んだのか?」
「ボクの技量を買ってもらいたいのです」
「それは何かね?」
「狙撃です」
「よし、うちの組員は戦場体験がない連中だ。ハジキだけさ。殺ってほしいのが一人おる。だが狙撃用ライフルが要るよ」
トミーが、旧日本軍の有坂銃を闇で買いたいと言った。給料も決まった。これで月収が二倍になったと思った。浜松の借家を買う考えである。
有坂銃は狙撃用の小銃である。少し癖があるが狙撃手の腕次第なのだ。一五〇〇メートルの距離からロシア兵に命中した記録が残っている。ブローカーが与座組にやってきた。ブローカーは混血に見えた。子分を連れていた。その子分がケースを開けた。トミーは一目で有坂銃だと判った。若き日のトミーは小銃に興味があった。有坂銃を見たときに日本が作った最高の銃であると知った。
「いくらかね?」と与座が訊いた。
「百万円です」
「う~む、もう少し安くならんか?」
「他のガンも買ってくれるなら安くしやす」ともう一つのトランクを開けた。
カービン、鼻を切り落としたコルト45口径、ルガー、、デリンジャー、シグ・サワ、
「手榴弾はないか?」
「いや、ワテは扱わない。沖縄に行けば手に入るが誰も扱わない。米軍が追跡にもの凄いカネをかけているからね」
「カービンは役に立つんか?」と訊いた。ブローカーが役に立つと答えたが、トミーが首を横に振った。
「じゃあ、そのコルト45捜査官スペシャルはいくらなのか?」
「親方、何丁買う?」
「そうだな、十丁」
「オーケー、コルトは十丁で六〇万円だが、半値にする。アリサカと合計で一三〇万円だ」
与座が手金庫から正徳太子の札束を取り出した。ブローカーがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
「待て。一二〇万円でどうか?」とトミーが言った。
「兄さん、あんたがクチを出すんですかい」とブローカーが凄んだ。
「河岡は若頭ナンバーツウだよ」と与座がすかさずトミーをサポートした。ブローカーがひそひそと子分と話していた。
「いやなら、持って帰れ!」とトミーが言い切った。
「負けた、負けた」とブローカーが笑った。与座が一二〇万円を茶伏台の上に乗せた。子分が有坂とコルト十丁を畳の上に置いた。有坂の弾丸をひと箱付けた。
「親分さん、贔屓にしてやっておくんなさい」とブローカーが出て行った。
与座が若頭を呼んで有坂を見せた。
「トミー、なんでそんなに高いんじゃろ?」
「組長さん、銃身ですけどね、三八歩兵銃よりも十二センチ長いんです。重さも三百グラム増えたけど銃座を付けると安定する。これは小倉陸軍造兵廠が作ったものです。狙撃メガネは日本工学、機械構造は、日本タイプライターが作ったんですよ」と言ってから七・七ミリの実包を見せた。与座が手に取った。薬莢が大きいことに目を見張った。
「銃口から飛び出す初速が秒速十ミリに増えた。その分、有効射程も伸びて一五〇〇メートルになった。最大射程が四〇〇メートルの三八歩兵銃とは大きく違うんです」
「なぜ、そんなに違うのかね?」
「弾の先がとがった細身だから、三八銃は三百メートルを超えると右へ流れる欠点があります。旋条が急であることが原因で量産するにはそうなるんです」
「すると、銃身の鋼鉄そのものが進歩したんだな?」
「そうです。前者の量産型九九式小銃がベースなんだけど、銃身や機関部などの精度が高く精密射撃に向いているものを選び出したのね。それに照準メガネとハンドル付きの銃座を着けた」
与座がスコープを覗いてみた。銃身よりも照準線の縦目盛は右斜めに入っていると思った。不思議な顔になった。
「弾道の偏流と言うんです」と言ってからライフルに実包五発をまとめたクリップを差し込んだ。与座が、引き金の位置が下方に修正されていることに気が着いた。

             続く
02/17
ピストル 第十二章
第十二章

水嶋が報復しないと決定した。子分たちが安堵の吐息を吐いた。イノシシ鍋を子分に食わせた。
「お坊ちゃん、しばらく外出は出来ませんぜ」
「それじゃ、ボクたちは要らないのですか?」と江戸川雷魚が若頭に聞いた。
「そうだな。自由にしてくだされ」
「それでは明日、天竜川と浜名湖を見たら潮来(いたこ)に帰ります。ご連絡を待っています」
「潮来?行ってみたいな」とトミーが言った。
「それじゃあ、招待します」

潮来は房総半島の質素な町であった。一週間前に会った江戸川一家のドンに挨拶した。だが、トミーは仁義を知らない。その理由を雷魚が父親に説明した。
「ベイサンの陸軍にいたと聞いたが本当かい?」
「本当です」
「何が特技かね?」
「狙撃です」
「ほう」
「武田一家のお坊ちゃんは大学生だと聞いたが、虎造親分がいなくなった。どうなると思う?」
「ボクにはわからないけど若頭が大黒柱です」
「前、関取の水嶋鶴太郎さんだったな」
「関西の親分衆はどう考えているのかね?」
「上機嫌でした」
「斉藤という剣術使いはどんな人物なのかね?」
「物静かなお人ですが」
「おい、雷魚、武田一家に失礼はしなかったか?」
「お父さん、ボクだって大学を出たよ」
「それが問題なのさ」と江戸川が笑った。
「お父さん、潮来のインチキ温泉へ行って泊まってもいいかな?」
「あそこは曖昧宿だよ」とまた笑った。
トミーが女を買うつもりだろうと思った。

旅館「股旅温泉」は、やはり女郎屋だった。それも若い女ばかりである。
「君、いくつ?」とトミーが目の下にまだソバカスの残っている絣のモンペを穿いた女というか女の子に訊いた。小柄で目がクリクリと可愛い。
「十八よ。どうして?」
「いや、もっといい仕事があるだろうと思った」
「アタイが嫌いなの?」
「好きだよ」
「じゃあ、お風呂に入ってからご飯を持ってくるね」
温泉はどこかと訊くと二人だけで入るのだと言った。不覚にもトミーが興奮してしまった。
「ボク、行くところがある」と雷魚が着流しに下駄でどこかへ消えた。
イクコという茨城訛りのある娘が真っ裸になってトミーの背中を洗った。三十にもなってワイフがいない自分がバカに思えた。風呂に入った。イクコの黒い恥毛が湯の中で揺れていた。温泉はインチキだが、イクコは本物だ。夕飯の魚は本マグロの刺身、ウニ、牡蠣酢だった。はらに卵を持ったワタリガニが出た。
「これ精が付くのよ」とトミーの目をのぞいた。
「ええ~?」
「あんたさ、名前なんていうの?」
「河岡富雄。トミーって呼んでいいよ」
「トミーか。いい名前だねえ」
「イクコって呼んで」
「イクコ」
「トミー」
ふたりはもの凄いキッスをした。トミーがイクコを押し倒した。
「ダメよ。ご飯を食べてからよ」
イクコが調理場へ行って熱燗を持って帰ってきた。イクコは飲めた。たちまち二本を空けた。トミーが驚いた。
「筑波の女はみんな飲むのよ」
その夜、トミーとイクコが八回もやった。十月の夜が明けた。
「ボク、イクコが好きになっちゃった」
「ふ~ん?アタイ、良かったあ?」
「今まで客を取ったことあるの?」と気になることを訊いた。
「うううん、トミーがアタイの初めてのオトコ。痛かったよ」
――処女を八回もやったのかとトミーが反省していた。
トミーが、霞が浦は次回にすると言って八重洲口行のバスに飛び乗った。浜松に戻った。

「イクコちゅう女の子が玄関に来とる。誰なんや?」
「水嶋さん、イクコはボクの女房になる女です」
「ええ~?」
浜名湖神社へ行って結婚式を上げた。付き添い人は平之助と水嶋と護衛隊だけであった。神主に一万円を払って鏡餅を貰って組に帰った。山海の珍味で宴会が始まるからだ。
「ご一同さん、それではお手を拝借」
水嶋がシャンシャンと手締めをしてから両手を天井に向けて上げた。
「新郎新婦のトミーとイクコ姐さん、盃を取って飲み干してくだされ。それでないと暴動が起きやす」と若頭が一同を笑わせた。斉藤が蓄音機に合わせて剣舞を舞った。夜遅くまで宴会が続いた。
翌朝、ふたりは神戸の有馬温泉へ行った。
「トミー、これ新婚旅行?」
「そうだよ」
「もうヤッチャッタのにね」とイクコが笑った。再びトミーがイクコの明朗さに惚れてしまった。
さすがは有馬温泉であった。潮来の股旅温泉ではなかった。
「これ、タッカイんじゃない?」
貧農の娘が親への仕送りを心配していた。
「イクコ、心配は要らない。ボクが稼ぐからね」
「うん、アタイさ、ヤクザと結婚してしまったんだ」と笑った。
二人は温泉に浸かって食っては寝た。毎晩、上になり下になって取っ組んだ。二人は疲れなかった。
――平和がいいなと長崎で終戦を知り、沖縄でエイミーに侵され、アメリカに渡った日を想い出していた。俺は、イクコを幸せにするぞ!
組に戻ると水嶋が一軒家を借りてくれた。斉藤が牡丹の絵が描かれた布団を担ぎ込んだ。
「好きなだけしていいぞ」と剣術使いが笑った。

             続く
02/16
ピストル 第十一章
第十一章
「思ったものが入手出来なかった」と水嶋に報告した。旅費の残りの七十万円を返した。
「トミー、ご苦労だったな」
「お役に立てず、済みません」
「いや、休んでくれ。日曜日の朝九時にここへきてくれ。お坊ちゃんと話がある」

その男は江戸川誠一と名乗った。江戸川一家のボスである。江戸川は東京の人間だが茨城、霞が浦の養鰻業界を取り仕切っていた。東京が市場なので関西以南の親分衆の財産を合計しても江戸川に敵わなかった。その大ボスの横に江戸川の倅、江戸川雷魚が座っていた。
「雷魚でっか?珍しいお名前ですな」と水嶋が挨拶した。
「祖父が着けた名前で本人も気に入っておるんです。こいつだけが大学へ行ったんですわ」
「何を専攻したのですか?」と興味を持った平之助が聞いた。
「フランス文学です」と平之助と同じ歳の雷魚が言った。雷魚はその名にそぐわない歌舞伎役者のような白粉が似合う顔をしていた。
「なぜ、フランス文学ですか?」
「高校時代にカミュウの異邦人を読んだことがきっかけなんです」
「カミュウ?」
「カミュウはアルジェリア人なんだけど生命に対してニヒルなんです」
「ニヒル?」
「全てのものに価値が無いと考え、人生は虚しいという意味です」
「どうしてそれに惹かれるのですか?」
「ボクも共感するところがあるから」
「雷魚さんとトミーにお坊ちゃんのガードマンになって貰う」と水嶋が言うと雷魚が頭を下げた。

江戸川組は甲斐組の傘下に入っていた。つまり武田平之助が江戸川誠一のドンなのだ。江戸川誠一は戦後の新興ヤクザだが日本刀で暴れまわるというその無謀なシマ争いで名をあげた。最初、天竜組が江戸川にアプローチした。江戸川は白神の威圧的な言動に反感を持った。一方の武田虎造は温和で言葉も丁寧だった。たったそれだけで甲斐組の幹部となった。その虎造が殺された。
「雷魚さんはハジキを撃てるんですかい?」
「ええ、一応、習ったんです」
水嶋がトミーを紹介した。米陸軍にいたので米国籍だと言うと江戸川誠一がびっくりした顔になった。
「それでは、お世話になります」と平之助が言って閉会になった。江戸川誠一と水嶋が席を立った。平之助、トミー、雷魚の三人が残った。
「ボクは明日、軽井沢に行く。同級生と会うためです。一緒にきてください」

三人が東海道線に乗って東京へ向かった。車中、ほとんど話しをしなかった。三人の男は一見、実直そうなサラリーマン風である。トミーが買ったばかりのニコンF2を革のケースから取り出してマニュアルを読んでいた。
「トミー、それいいカメラだね」
「お坊ちゃん、これが最新の写真機だと店員が言うので買ったんです」
「それ、そうとう撮影技術がいるんじゃないかな」と雷魚が初めて口を開いた。
「そうですね。何度読んでも解らないところがある」
スイスのチロル帽子、一目で登山とわかる服装をした若い女性が隅の席を立って平之助の横に立った。平之助が立ち上がった。
「京子さん、お久しぶり」
「平之助さん、お元気そうで嬉しいわ」
――ああ、この女性がお坊ちゃんの彼女だろうとトミーが思った。そして軽井沢へ行く理由がわかった。
「こっちの美男子は、トミーと、雷魚さんです」
トミーは笑ったが、雷魚は目で挨拶した。京子がこのふたりがガードだと悟った。ふたりともヤクザらしくないので安心した。
三人の男とひとりの女性が中央線で新宿に行って北口で降りた。江戸川誠一が手配したウイリスジープが待っていた。雷魚が猟銃二丁を確認した。
「レミントンですね」とトミーが言った。
「それどうするの」と京子が怪訝な顔をして平之助に訊いた。
「イノシシを狩りに行くんだけど嫌われるかなあ?」
「面白いわ。どこで?」
「軽井沢の北東にある榛名山付近に多く出るって言ってる」
軽井沢には泊まらず、北へ二十キロの榛名湖に向かった。左に榛名山、右に天目山が聳えているのが見えた。いずれも山頂に雪を被っていた。なかなか険しい山である。京子が榛名山は拒んでいると感じた。榛名湖の東岸のロッジにチェックインした。ヒトモッコという不思議なネームである。四人が食堂へ行って夕食を取った。
「榛名湖はカルデラなんだって。一月から四月まで凍結する。氷原に穴をあけてワカサギを釣るってガイドブックに書いてある」
「面白いわね。すると温泉があるのね」
「このロッジは明治時代からの温泉宿なんだよ。ここはもう群馬だけど、瞽女(ごぜ)さんらはここから険しい山道を歩いて越後へ行ったと書いてある」
「ゴゼさん?」
「瞽女は盲(めくら)御前のこと。女性の盲人で、数人で、三味線、ときには胡弓を弾き唄い、門付(かどつけ)巡業を主として生業とした旅芸人だったそうだよ」
「ふ~ん、何か不思議な世界なのね」
トミーと雷魚がニジマスの塩焼きやヤマメの天ぷらを食っていた。新潟の米、山菜の煮つけは美味かった。
――ああ、日本はいいなあとトミーがアメリカを忘れていた。
「雷魚さん、明日ね、榛名市庁へ行って狩猟許可をもらわないとイノシシを撃てない」
「イノシシは危険でしょうか?」
「いや、中型犬ぐらいで、激突しなければ大丈夫ですよ」
危険じゃないと聞いて雷魚が初めて笑った。
――だから猟銃は、38口径なんだとトミーが思った。
「トミー、雷魚さんとふたりで山歩きの軽装一式を店で買いなさい。支払いはツケにしてください」
平之助と京子は名大のワンダーフォーゲル部で会った。平之助もトレッキング装備を持っていた。部屋を三室、一週間、借りてあった。トミーと雷魚の部屋が平之助の部屋を挟む形である。
「平之助さん、温泉は男女共同だって。行く?」
京子がボウイフレンドを誘った。二人は真っ裸になると手ぬぐいで前を隠して湯に入った。竹の筒から冷たい水が温度を調整していた。トミーが海水パンツを履いて油槽の隅に入った。雷魚が真新しい越中フンドシでトミーの横に入った。トミーが自分も京子のような彼女が要ると思った。しかし、俺にはインテリは到底、無理だ、、
部屋に戻った。
「あんまりしちゃダメよ。明日があるから」と京子が平之助の胸に黒髪を置いて囁いた。平之助が直立したペニスを京子の下腹に押し付けた。
「ああ、平之助さん」と京子が潤んだ瞳で愛人の眼を見た。

狩猟許可は簡単だった。トミーは許可されなかったが、本人は、人間狩り専門ですと言って笑った。
「河岡さん、あなたは米国籍ですが日本国籍もお持ちでしょうか?」と役人が訊いた。
「今、米国籍の取り消しを手続き中なんです。仮の日本国籍を持っています」
「これが榛名山付近の杣道(そまみち)です。昨日、榛名の裏側にイノシシの一家がいたとハンターが言ってます」と漫画のようなマップをくれた。
ジープをガソリンで満タンにして、その榛名山の山腹へ真っすぐ向かった。京子が景色を見たいと言ったからである。運転手は平之助である。山頂まで道はなかったが途中に展望台があった、標高一五〇〇メートルと標識があった。
「烏帽子岳、蛇岳、群馬山、、まあ、美しいわ。平之助さん、ありがとう」
トミーがニコンで写真を撮るのに夢中になっている。雷魚は双眼鏡で泊まっているロッジを見つけた。平之助が京子を抱き寄せた。トミーがそれをすかさず撮った。
「トミー、それを誰にも見せるなよ」
「イエッサー、わかってます」
「現像したらフイルムをくれ」
その展望台から裏山へ行く道はなかった。一旦、裾野まで戻った。榛名山の裏は違った。樹木が違う。どんぐりや椎が多い。
――ははん、だからイノシシが棲んでいるんだと平之助が思った。
五時間ほど歩き廻ったが、イノシシの影はなく、母親にトコトコと着いて行く子鹿の姿を見た。バンビを撃つ気はなかった。
「ロッジに帰ろうか?」
二日目も手ぶらで帰ってきた。三日目、外に出ると、粉雪が舞っていた。ヘッドライトを点けた。ジープを停めて杣道に入った。一時間ほど歩くと、どんぐりを食べている黒い二頭のイノシシを見つけた。距離二百メートル。京子とトミーを残して平之助と雷魚が百メートルまで接近した。イノシシの一頭が頭を持ち上げてこっちを見た。二頭が駆け出した。平之助が立ち上がってライフルを構えて撃った。雷魚も撃った。イノシシは雑木林の中に消えた。
「当たらなかったようだね」
「見に行きましょう」
どんぐりの皮が散らばっていた。見ると点々と血痕がある。雑木林の中で一頭が倒れて喘いでいた。京子とトミーがやってきた。平之助がレバーを引いて銃口をイノシシの眉間に当てた。
「きゃあ、やめて」
「パ~ン」
イノシシが昇天した。雄だった、するともう一頭は連れ添いか?イノシシは二十五キロぐらいあった。デッドウエイトは重い。だが、トミーが右肩に乗せてジープまで四キロメートル歩いた。雷魚がトミーの強さに驚いた。

ロッジの板前が慣れた手つきでイノシシを捌いた。皮を剥ぎ、心臓、レバー、背中のヒレ肉、脚、、それを新聞紙で包んだ。それを冷凍庫に入れた。毛皮は年末に郵送すると言った。
「雷魚さん、明日、帰ってもいいが、榛名山の山頂へ登らないか?」
「私も行くわよ」
「靴はこれでいいけど、ザイルとアイゼンが要るよ」
「借りよう」とトミーが言った。
「それでは」と温泉に入って早々と寝た。京子が平之助の浴衣を剥いでペニスを握った、、

平之助が散弾銃を一丁、手に持って出てきた。マネージャーから借りたのである。
「何か撃つんですか?」
「雷鳥を撃つ。二羽までOKらしい」
「雷魚が雷鳥を撃つわけにはいきませんが」とニヒルな雷魚が珍しくジョークを飛ばした。
榛名富士が目の前に見えた。青空がどこまでも広がっている。山頂まで五時間歩いた。京子だが、ワンダーフォーゲルで鍛えた脚が役に立った。喘いでいるのは雷魚だけである。途中で白に黒い縞のある雷鳥のつがいを見た。雷鳥ほど撃ち難い野鳥はいない。散弾銃は五十メートルが限界である。そこまで腹這いになって接近するうちに飛んで行ってしまう。
平之助もなんども失敗した。
「もう一回だけ」と京子に言って腹這いになった。雪の中に生え松が見えた。その傍にやはりつがいがいた。飛び立つ音がした。麓に向かって滑空する姿勢になった。
「パ~ン」
一羽が落ちた。トミーが走って行って拾った。
「もうやめた。帰ろう」
「パ~ン」
平之助が誰かが雷鳥を撃っているのかと音のした方角をみた。
「パ~ン」
平之助の前の雪が弾けて飛んだ。
「伏せろ」とトミーが怒鳴った。四人が一斉に伏せた。平之助が京子を抱きしめた。その後、撃ってこなかった。
「天竜組だな」と雷魚が言った。平之助が雷魚を見ると、その細面の歌舞伎役者が残忍な形相に変わっていた。
新宿でジープを返して同じ経路で浜松に帰った。京子だけが滋賀に帰った。

             続
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ピストル 第十章
ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。みなさんの感想をください。コピーしないでね。著作権に触れます。伊勢

第十章
桜島の灯台が水平線に見えた。桜島は噴煙を空に噴出していた。時計を見ると朝の九時である。
「後、一時間ちょっとで鹿児島新港の北埠頭に着くよ」
いつの間にか梅林が甲板にきていた。
「船長さん、桜島の横を通ります?」
「横ちゅうか桜島は湾の一部だからね」
「水深はどのくらいなんですか?」
「灯台のあたりは三十メートルだよ」
「船長さん、真田紐とグリスを頂けませんか?」
トミーが船室に戻った。箱を開けて手榴弾にグリスを塗った。それから軍足に一個ずつ入れた。その軍足にもグリスを塗り付けた。箱に戻して、四十メートルに切った真田紐で括った。土産に買った孟宗竹の細工を端に結んだ。貨物船は灯台の真横を通った。船長も船員も忙しいのか甲板にいなかった。トミーが箱を海中に投げた。

貨物船が北埠頭に停泊した。入国検査があったが、米国籍のトミーには敬礼だけだった。トミーが居酒屋に入った。焼酎を頼んで今日のおすすめ品の木札を見た。特上ブリ飯と焼き鳥を頼んだ。
「おじさん、明日、釣りに行きたいけど、近くに釣り船はある?」と居酒屋の亭主に訊いた。
「ここは釣り船屋ばっかりでっせ。弟が釣り船を持ってるよ。乗合だけどね」
「ボク一人だけで釣りたい」
「高くつくけど?」
「桜島も見学するからね。弟さんと酒を飲むから弁当と酒を用意してください」

真空丸という不思議な名前の釣り船が朝陽ととも出港した。
「お客さん、マサバはいくらでも釣れるから、カンパチを狙いましょう。刺身美味いで。今が旬なんや」
「桜島の灯台に行けるかな?」
「行けますよ。灯台の付近にはアサヒガニがおるんです」
「蟹?それじゃあ、始めにその蟹を取りに行こう」
「いい潮時ですぜ」
不思議な形の蟹が釣れた。カブトガニの一種だろうか。箱を投げ込んだあたりへ行った。孟宗竹のウキはすぐに見つかった。トミーが箱を引き上げるのを見て船頭が不思議そうな顔をした。カンパチ三匹、マサバ十匹、網でツキヒガイを採った。丸い大きな赤い貝である。船頭が炭火を起こして焼いてくれた。中身はホタテのようだが、貝柱が大きかった。酒をヤカンで沸かして飲んだ。居酒屋に戻った。魚を全部、兄弟にやった。船頭はあの不思議な箱の話をしないことにした。

トミーは、翌朝、鹿児島本線で博多へ向かった。駅前の旅館に泊まった。ボストンバックを買って箱を入れた。翌朝、博多発大阪行きに飛び乗った。

             続く
02/15
ピストル 第九章
第九章

トミーが水嶋に二週間休暇を貰いたいと言った。米陸軍の初年兵以来の親友が沖縄に赴任したと理由を述べた。
「ははん」とトミーが沖縄へ飛ぶ理由が分かった。
「いいよ。いつ発つのかね?」
「明日の午後、伊丹から那覇へ飛びます」
水嶋が金庫を開けて百万円をトミーに渡した。――若頭は旅の目的が判っているなとトミーが水嶋の目を見た。トミーが一礼して出て行った。
「若頭、草鞋を脱いだばかりのトミーに百万円を上げたんですか?」
「お坊ちゃん、信なければ立たずと言いますぜ。トミーはわが身に降りかかった辛い話しをしたんです。トミーに賭けましょう」

翌日の午後トミーが伊丹から那覇行きに乗った。故郷の鹿児島の上空を飛んだあたりから青い海が見えた。那覇空港に着くと米軍の検査があった。トミーが予備役と判って士官が敬礼をした。トミーが派遣された朝鮮戦争が終わって二年が経っていた。戦友のケニーが待っていた。ケニーが明治橋を渡って最初の道を左折した。左に那覇軍港が見えた。大きな上陸用LT船が停泊していた。ロワジールホテルが左手に見えた。

「俺たちが朝鮮で使ったM4を一丁ほしいんだけど」とトミーがケニーに用件を切り出した。M4ライフルは米陸軍の狙撃兵の宝であった。口径が、7.6ミリと小さいが火薬が大きいので一五〇〇メートルの敵に命中した記録がある。
「トミー、そりゃ、ダメだ」と即座に拒否された。
「闇で売られていると聞いたんだけどね」
「朝鮮で紛失したM4は百丁だけど、フィリッピンに渡ったと考えられる。沖縄では米軍の監視が厳しくなっている。ダメだよ」
ふたりの戦友はストリップを見に出かけた。沖縄女が腰を振っていた。いろんな人種の混血なのか、とにかくブスなのだ。女がふたり横に座って――ねえ、カクテルオーダーしてもいい?と訊いたが、ケニーが追っ払った。
「島を見学するか・」
「いや、ケニーに会いたかっただけだ。明日の昼、ロワージールへ来てくれ」
トミーが日本へ帰ったことと武田一家に草鞋を脱いだ経緯を話した。
「トミー、そのタケダ、ファミリーから出たらどうなの?」
「いや、ボスがいい若者でね。ミーを気に入ってるんだ」
「いつ、日本本島へ帰るの?」
「明日の夕方、鹿児島行きの貨物船に頼んだ」
「船?」
「ヤップ、ライフルを持って帰る考えだった」

結局、沖縄には一晩泊まっただけで終わった。昼過ぎにケニーがやってきた。
「トミー、これは俺の贈り物だ」と鍵の掛かった木箱をトミーに渡した。中身が何なのかずっしりと重い。木箱を開けて見た。トミーがびっくりした顔になった。中身が手榴弾二個だったからである。
「鹿児島で入国検査があるよ」
「そこを工夫しろよ」
「う~む」
ふたりの戦友がバルコニーへ出た。
「あれに乗せてもらえる」と那覇軍港の埠頭に停泊している貨物船を指さした。日本人の作業員がクレーンでクレートを釣り上げていた。
「ケニー、結婚したのか?」
「基地の兵隊と結婚した。白人だがね。彼女は今、妊娠四か月なんだ」と戦友が笑った。
「それは良かった。これは俺のお祝いだ」と封筒を渡した。
ケニーが開けてみると、聖徳太子が百枚入っていた。

のんびりとした船旅がトミーの心を癒していた。十二月に近いのに日差しが温かい。
「鹿児島まで何時間かかるんですか?」と日本人の船長に訊いた。
「二十時間ですわ。明日の昼に着きますよ」
「船長さん、お歳に見えますが、海軍におられましたか?」
「梅林と言います。戦艦大和の生き残りです」と水嶋ぐらいの歳の梅林が笑った。
「あなたは米軍人ですか?」
「予備役です」
「どうしてアメリカへ渡ったのですか?」
「長崎で終戦を迎えました。ボクは初年兵でした。武装解除を受けて途方に暮れました。鹿児島に帰ったんですが山を崩して畑にする土方以外の仕事はなかったのです。あなたさまと同じように沖縄航路の輸送船の船員になった。英語も片言が出来るようになった。米軍は病院を建てていた。マラリアが猛威を振るっていたからです。沖縄のほうがドルで給料がもらえると知って船を下りました」
「うん、憶えているよ」
「白人のエイミーという看護婦の助手になった。彼女は三十歳ぐらいで夫を珊瑚礁海戦で亡くしたと言っていました」
「それで渡米はいつしたの?」と梅林が興味深々という顔でトミーに訊いた。
「ボクはエイミーから誕生パーテイーの招待を受けたんです。彼女の宿舎へいくと招待客はボクだけだった。その夜、童貞を破られた。もの凄い愛撫に翌日、仕事に行くのが辛いほどでした」
「ふ~ん」
「エイミーがアメリカへ帰る日が来ました。その夜、もの凄い性交を朝陽が昇る時間までやりました。それじゃサヨナラとエイミーに言った」
「トミー、ロサンジェルスへ来て」とエイミーがトミーの目を覗いた。
トミーは半年悩んだ。渡米を決心した。ビザがない。観光ビザで渡ったのである。ロサンジェルスに着いたが、エイミーは、ニューヨークに移ったと判った。日本円が一ドル、三百六十六円の時代である。持っていたカネは一か月で無くなった。トミーは途方に暮れた。泊まっていたYMCAが出て行けとトミーの荷物を廊下に放り出した。その朝、追い出された一人が一之瀬秀夫であった。
「あんたよう、俺とペアになってブドウ畑で働かないか?」
そのブドウ農園はロサンジェルの南のサンゲブリエル山塊の麓にあった。黄金の天国というブドウ農園はイタリア人の富豪が持っていた。だが監督は日本人だった。ペアになると仕事に就きやすいとヒデオが言った。監督は辛坊という名の三十代の男であった。辛坊が、日当は二十ドル、飯付き、小屋付きなのだと言った。ふたりは偽のネームをサインしてバットという毛布を貰った。日本軍でもバットと言ってたなとトミーが想い出していた。
「ふ~ん、面白いね」と戦艦大和の生き残りがトミーの冒険に感心していた。
ブドウを手でもぎる毎日だった。食パン一斤、バター一本、水がランチである。月の終わりに給料が出た。封筒を開けてみると、十ドルしか入っていなかった。ヒデオが理由を聞いた。
「一之瀬、河岡、お前らの飯代と小屋の家賃を差し引くと十ドルなのだ」と辛坊が笑っていた。
一週間後の間夜中、ヒデオとトミーが辛坊の小屋に行った。星がきらきらと輝く九月の夜だった。ヒデオが戸を軽くトントンと叩くと辛坊が眠そうな顔をして出て来た。トミーが空かさず辛坊の頭をタオルで巻いた薪でポコンと叩いた。辛坊が脳震盪を起こした。ヒデオが辛坊に猿ぐつわを嵌めた。トミーがバールで金庫を開けた。
「ふ~ん。それでいくら入ってたの?」と梅林船長が身を乗り出していた。
「五〇〇ドルでした」
ハイウエーに出て、走ってきたトラックに手を振った。レタスを山のように積んだトラックが停まった。ロスへ行くものと思っていたが、北のサンバナデイーノ陸軍基地へ野菜を届けるとドライバーが言った。朝陽が昇るころサンバナデイーノに着いた。運転手に二十ドルやった。メキシカン風のモテルに泊まった。
「ポリスに見つからんかなあ?」とヒデオが心配した。
ふたりは全米の地図を見ては、どこへ行こうかと話し合った。馬を借りて田舎を見て回った。毎晩、映画館で西部劇を観た。幌馬車隊がインデアンに襲われる映画が面白かった。同じものを何回も見た。理由は米語を覚えるためである。一週間が経った。
「トミー、ここで別れよう。俺はシカゴへ行く。牛の解体はカネになるんだって言ってる。お主はどうする?」とヒデオがその朝、トミーに言った。
「わからんけど、昨晩、映画館に行ったとき、ポスターが貼ってあった。陸軍が兵隊を募集しておった。モテルのメキシコ人のオーナーに聞くと、彼は不法移民だったけど、陸軍に入隊してアメリカ市民になったと言うんだ。ボクもこのままだと不法移民になってしまう。明日、サンバナデイ―ノの陸軍基地へ行こうと思う」
「トミー、また兵隊になるんか?」
「今、平和な時代だからね。月給を貰えば、エイミーと結婚出来る」

             続く
02/14
余談 さて日本の警察は?


カナダのオンタリオ警察。黒人は12人の屈強な警官がかかっても動かない。テーザーガンも効かない。スプレーも効かない。黒人を思いっきり殴っている警官は、犬が容疑者に殴られたからなんです。それにしても、警察犬は自分の任務をよく知ってている。伊勢は日本の警察も警官も世界で最も弱いと思っている。横浜の姉が家庭内暴力を受けたときに金沢署の刑事は「そんなことに関わっている時間などない」と言ったんです。殺人が起きてから出てくる。これさ、警察だけじゃないな。仕事がしたくないと思えるね。伊勢

02/13
連載小説 ピストル 第七章、第八章
ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。みなさんの感想をください。コピーしないでね。著作権に触れます。伊勢

第七章

九月に入った。シラス漁の後半戦の始まりである。業者は長月(ながつき)と呼んでいた。だが、十一月、霜月に獲るシラスが最も尊重される。それは夏の土用の丑の日に江戸っ子がわんさと鰻を食いに出かけるからである。浅草では浴衣の着流しに下駄、うちわと決まっていた。つまり鰻は日本の伝統に支えられていたのである。この季節ではシラスの数が激減する。それは霜月というように朝霜が立って水温が下がるからである。それが理由で火力発電所の付近にシラスが集まった。

その日の夕方まで騒動は起きなかった。双方の組長が、騒動を起こすなと子分どもに命令していたからである。だが、騒動が起きた。火力発電所はほとんどが下流にある。川の水を沸かして蒸気を作る。残った湯水はコンクリートの排水口から川に吐き出す。その排水口は十ヶ所あった。シラスはそのまわりに集まるのである。これが問題を起こした。天竜組の若頭、白神辰治が艀(はしけ)を出してその温水を東岸に引き寄せたのである。シラスは天竜組の独占となった。西岸からゴムボートが走ってきた。艀に角刈りの男が立ってカンテラを照らしていた。銃声が空気を裂いた。角刈りが川に落ちた。角刈りは白神の舎弟、鬼神野であった。天竜組がいきり立った。だが鬼神野は腿を撃たれただけであった。白神がハジキを取り出した子分を制した。白神が休戦のメッセージを武田一家に送った。その事件以来、双方は夫々の岸で幼魚を取った。そんな冬のある日、長谷川京子から手紙が届いた。

――親愛なる平之助さん
私は新聞であなたのお父様が撃たれたと知ってあなたを心配しています。新聞はあなたの組と天竜組の記事を江戸時代からの宿敵と書いています。私は未成年法の第一次試験に及第しました。あなたが復学することを心から願っています。平之助さんと私には将来があります。私はあなたを愛しています。京子

武田平之助が返事を書いた。
――ボクが最も愛する京子さん
まず、ボクは警察と若頭に守られている。抗争だけど、こじれる方向にある。ボクは必ず和平を取り戻す。ボクも復学したい。君と会いたい。あの南アルプスの山荘が忘れられない。ボクは君の虜になった。君と別れて生きられると思わない。ボクは京子を愛している。待っていてくれ。平之助

第八章

――何故なのかボクはエイミーと性交することが疎ましかった。軍隊で上から下から人種差別を受けた。それと戦う毎日だった。それが理由で白人の妻に感情が移らなかったと思う。ボクは、エイミーがセックスに飢えていることにも気が着かなかった。
トミーが水嶋に妻と別れた経緯を話していた。
「う~む。それで?」
――ある日、妻が帰宅しなかった。朝、帰ってきたので問い質すと同級生の家に泊まったと言った。なぜ、電話をしなかったと問い質すと同級生の女性は電話を持っていないと答えた。南カロライナの陸軍に休暇を要請した。妻の行動を監視するために、、
「う~む、それで?」
――妻とエルビス・プレスリーのようなヘアカットの若い男がモテルから出てきた。ボクはジープから飛び出していった。妻はびっくりした顔をしたけどエルビスは、にやにやと笑っていた。
「う~む」
――妻の横っ面にビンタをくれた。エルビスが飛び掛かってきた。だけど空手のコーチには勝てない。エルビスが地面に延びたところを蹴った。前歯が折れる音がした。エイミーが悲鳴を上げた。
「エイミー、おまえ、この優男が好きなのか?」
「イエス、アイドウ」
「う~む、それでどうした?」
「十年いた陸軍を志願退役して、家を売り、妻に上げた。妻は泣いていました。思い切って日本に帰ってきました」
「ごくろうだな。その狙撃班の話しを聞かせてくれ」
「ボクは狙撃手ではなくてスポッターという助手でした。標的の位置を計算する役目です。距離と風向きを計算して狙撃兵に敵のどこに照準を合わせるか指導する役目です」
「撃ったことはあるのかね?」
「ありますが、狙撃兵のようには的に当たらないのです。それはまた違った感覚が必要なんです」
「トミー、狙撃銃を手に入れられるか?」
「はあ、やってみます」
トミーには心当たりがある。だが、司直が知れば監獄行き超特急は確実なのだ。日本の刑務所に入るのは嫌だなと表情が暗くなった。それを水嶋が見た。
「お坊ちゃん、トミーをガードに入れます」と水嶋が平之助に伝えた。ガードとは、石井、磯貝、浜本の鉄砲玉である。
「空手の達人だけでは済まないと思うけど?」
「いいえ、白神はお坊ちゃんを狙撃すると考えられます」
「なるほどね」と平之助が腕を組んだ。

             続く
02/13
連載小説 ピストル 第六章
ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。みなさんの感想をください。コピーしないでね。著作権に触れます。伊勢

第六章

斉藤が亀沼鉄次を斬ってから、一か月が経った。天竜川のシラス漁は最盛期に入っていた。ウナギの幼魚は摂氏八度前後を好む。二つの組は夜になると水温を図った。お互いの顔を見て挨拶をした。天竜一家は川の東岸を縄張りとしていた。よって西岸が武田一家の漁区なのである。三下といえども、シラスを取るものは高給取りである。シラスの色はグレー、体長は十センチほどである。これが九か月後には蒲焼きになるのである。
その八月の夜、武田一家は七百人の子分を川に入れた。満月が出ていたが、ハロゲンランプで川面を煌々と照らした。三下たちはゴムのつなぎを着て、岸から三メートルに立っていた。そして三メートルのタモ網でシラスを掬った。岸から六メートル離れると水深が深いのである。川の真ん中の水深は六メートルである。いずれも河口である。新掛塚橋が北に見える。西側にゴルフ場がある。天竜組の漁船が二隻一組で十組、河口を縄張りとして網漁をしていた。従って武田組は上流に行くしかなかった。つまり美味しいところを天竜組に取られていた。これでは、漁獲量がダントツに違う。資金の大きい天竜組は益々、全国の縄張りを広げて行った。特に大手スーパーや日本航空に卸すようになると大企業となった。
目の当たりに彼我の違いを見た平之助は、天竜一家の軍門に下るほかないのかと思った。
「お坊ちゃん、武田一家は元禄時代からの任侠。天竜組の軍門に下るなら死にましょう」
「水嶋、そうだな」
元相撲取りが平之助の顔をじっと見ていた。向こう岸を見ると月明りの中に数人がこちらを見ている。ひとりが両手で双眼鏡らしいものを持っている。
「お坊ちゃん、浜松に戻りましょう」

武田組は浜松市に本拠を置いていたが、天竜組は天竜川の東の磐田市に江戸中期より砦を置いていた。本拠は天竜市である。両組ともその地勢を利用して根っこを張っていた。
「双眼鏡を持っていたのは白神だろう」
「奴らはライフルを持っております」
「よし、川に行くのはこれでやめよう」
「天竜警察が出てますが頼りにはならない」
「ところで水嶋、先週、草鞋を脱いだ男は誰なの?」
「河岡富雄という三十歳の男です。米陸軍にいたと言っております」
「ほう。でもなぜ、日本に帰って来たのかな?」
「アメリカ女房がボウイフレンドと駆け落ちしたとか言っておりやす」
「駆け落ち?でも、うちはウナギヤクザだけど?」
「ええ、河岡はウナギに詳しいんだと言っておりやす」
「アメリカのウナギかい?」
平之助が任侠の言葉になっていた。
「キューバへ行ったらしいんです。日本水産が大西洋のウナギの調査を始めておりやすから」
「面白いね。あとで、その河岡と飯を食おうか?」

三人が出前の特上寿司を取った。河岡の好物だからである。だが、目茶苦茶に高いものしか食わなかった。大トロ、中トロ、イクラ、カンパチ、金目鯛、モズク、、
「あんさん、モズクが好きですかい?」
「いえ、頭の真ん中が禿げてきましたので」
河岡は水嶋を若頭と呼ばなかった。
「じゃあ、俺も食わなきゃならんじゃないか」と前力士が言うと大笑いになった。平之助は性格が明るい河岡が好きになった。
「河岡、米陸軍で何をやっていたのかね?」
「親分、トミーとお呼び下さい。空手の教師をしていました」
「そのほかに特技は?」
「狙撃班にいました」
水嶋と平之助が目を合わせた。
「よし、トミー、その話はまた聞くことにしよう」
「アメリカにはウナギがおるとか?」
「フロリダからカナダまでウヨウヨいます」
「西海岸にはおらん?」
「おりません。西海岸には大きな蟹が棲んでるからです」
「いや、海流だろうね」
「友達の一之瀬が地球の自転と公転に関係があると言っていました」
「そのウナギは美味いのか?」
「味は日本のウナギと同じですよ。ただ背骨の椎骨だけど日本産が九椎に対してアンギラは十二椎あるのです」
「ははん、それで図体がデッカイんだな」
「これが入ってくると脅威だね」と平之助が言った。
「いえ、そうでもないんです。日本人は日本の川鰻にこだわりますから中国産も敬遠されます」と熱燗を持ってきた姐さんが言った。
「ああ、そうか。鹿児島、高知、三重、愛知、、産地を明記するのが法律だからね」
平之助が安堵した。

             続く
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連載小説 ピストル 第五章
ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。みなさんの感想をください。コピーしないでね。著作権に触れます。伊勢

ピストル

第五章

昭和五十五年の秋、日本全国津々浦々から親分衆がやって来た。鹿児島、宮崎、高知、徳島、三重、三河、静岡、、どれも太平洋岸のウナギの産地の親分である。先代の虎造に恩がある連中である。親分たちは、武田組からシラスを買い、養鰻から卸問屋を取り仕切っていた。

武田組は浜名湖の東側の入り口、弁天島に別荘を持っていた。二十人の親分衆をその別荘に招いた。甲斐組の筆頭、武田一家は親分衆が来るたびに京都から料理人を雇い、浜名湖を周遊する遊覧船を借り切った。会議は夜と決めていた。早速、親分衆を乗せた遊覧船が弁天島を出た。趣向は富士山と紅葉である。広島や博多の親分が富士山に手を合わせた。遊覧船、弁天丸の船長がシラス漁を解説した。

白いダイヤと言われるウナギの稚魚、シラス漁の漁期は三月二十一日から翌年一月十四日までである。漁期中に実際に船で出漁するのは十一月初旬頃である。操業期間は十か月だが、夜網で捕獲するなどの日数は年間一〇〇日から一三〇日ほどである。船による操業方法は二艘の船で群れたシラスを曳き網で捕獲する二艘船曳き網漁業が行われている。実際は、四月中旬から六月ぐらいがシラス漁の最盛期である。だが、この時期はキス釣りが始まるので海岸近くで網を曳かない約束になっていた。一艘曳きで網を曳いている船もあるがこれはシラスではなくキス網である。この一艘曳きは海岸の至近距離を曳くのでキス釣りはその時点で終了になってしまうである。シラスは太平洋岸ならどこでも取れたが天竜川が日本最大の漁場なのである。マリアナ海溝で生まれた鰻は、ヒラメの形をしていて、一センチのサイズだが、河口に達すると十センチに成長する。ウナギの稚魚は日本海側の山陰地方にも上がってくる。理由は、マリアナ海流の支流である対馬海流が運んでくるからである。北へ行くほどいなくなる。青森が北限とされている。ウナギのシラス漁は海から風が吹く、曇った夜の満潮に捕獲量が多いとされている。江戸以来、シラスを獲る者はまともな仕事が嫌いな者かヤクザ者であった。

親分衆は何ども聞いた話だが、若かった日を想いだしてハッピーな気分になった。遊覧と酒盛りを三時間ほどして、ウナギを漁師から買った。昼下がり、別荘に戻った。親分衆のほとんどがセニアなので、会議まで百人風呂に入って昼寝をした。花札をやらなかった。平之助の命令である。武田組のしきたりは生きたウナギを割くことから始まる。斉藤が捌きを買って出た。水嶋が幼い平之助が初めてウナギが殺されるのを見て泣いたことを想いだしていた。

目打ち、まな板、ヌメリを取る手拭い、千枚通しが用意された。斉藤が軍手に左手を入れた。その左手で桶からウナギを掴んでまな板の上に置いた。首を半分切った。頭を右に置き、目打ちを頭に刺してまな板に固定した。千枚通しで背開きにした。次いで背骨を削いだ。それを二つに切った。見ていた親分衆がびっくりした顔になった。なぜなら、斉藤がウナギを掴んでから十秒で捌いたからである。拍手が湧いた。
「難波の職人もかなわんな」と大阪の親分が言った。
武士の関東では背開きである。理由は腹を切れば、切腹を想わせるからであった。だが関西では腹を割って話す商人の文化であった。蒲焼きも違った。関東は焼いて蒸す。真ん中が白く外側が黒い。関西はその逆で蒸す過程を省いた。
「若頭、何とか合戦は避けられないもんかな?」と四国の高知からきた大河内親分が盃を受け取りながら水嶋に訊いた。ふたりとも巨漢である。大河内は先祖代々、武田一家の直参旗本である。だが、孫を持つ身となってからは平和を好んだ。
水嶋が、ドンが撃たれた事件から三下が殺されたこと、斉藤が亀沼を斬ったことを話した。親分衆がどよめいた。そして全面戦争を覚悟した。
「各一家から一人でよいのです。精鋭を貸してくれませんか?」と水嶋が言った。親分衆が一斉に平之助を見た。平之助は威圧を感じて身震いした。
「水嶋の言うことを聞いてください」と気を取り直して、ヤクザらしくない言葉を使った。限りない抗争だと巨額の戦費を要求されると親分衆が固唾を飲んだ。
「戦費は十分にあります。親分衆は心配されないで良いのです」と親分衆の心配を予期していた平之助が言った。四国でも神戸の紅梅組と抗争が起きていた。大河内が安堵した顔をした。

親分衆は夫々、帰途に就いた。それを天竜一家が放った密偵が見て、白神に報告した。平之助、水嶋、斉藤、与座、石井、磯貝と神風特攻隊あがりの浜本の七人が残った。作戦を練るためである。
「甲斐組はご周知の通り指定暴力団ではない。ウナギ一筋が傘下の組の収入だからだ。政府はウナギ捕獲団体などと言っているが、我々ヤクザが取り仕切っている。その頂点に武田一家と天竜一家が座っている。一方が他方を吸収するという考えは江戸時代からあったが、話し合いで決着してきた」と水嶋が切り出した。
「水嶋若頭、今度は決戦だとおっしゃる?」と与座が水嶋に訊いた。水嶋は――白々しいと思った。
「それは親分衆に伝えた通りだ。積年の兄弟のお前らだが、血判を頂きたい」
平之助、水嶋が小指を小刀で切って名前と地位の下に血判を押した。次に与座が押した。斉藤、石井、磯貝、浜本が押した。この四人は水嶋の配下である。与座だけが一家を形成していた。その与座が指を切るのを浜本が見ていた。
「それでは若頭から作戦を聞きたい」と与座が言った。
「まず、漁期中には大きな抗争は起きない。青戸が土座衛門になり、亀沼が斬られてもだ。その理由はこの秋から正月の間ほど遠江、遠州にとって大きな収穫はないからだ。だが、我々、七人の命を狙うだろう。我々さえ守れば一月十四日までは、いくさはないと思って良い」
作戦とはこういうことであった。
「我々も天竜一家の組長、荒山大鉄と若頭、白神辰治のお命を頂戴する。作戦の詳細をここでは述べない。漏れるからだ。いや、お前らを信用しないというのではない。お坊ちゃんが、お若いからだ」
任侠の掟は、おとこになる。つまり人を殺した経験のある者だけが認められるのである。組長の武田平之助以外はみんな殺人歴を持っていた。最も殺人の数が多い者は硫黄島生き残りの与座である。従って、与座は尊敬されていた。作戦が聞けないと知って与座が憮然とした顔になった。そして水嶋が与座は自分を疑っていると確信していた。

              続く
02/11
連載小説 ピストル 第四章


今年初めての水泳。ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。コピーしないでね。著作権に触れます。伊勢

ピストル

第四章

斉藤は変わった名前を持っていた。万歳山である。「万歳さん」と組員は斉藤を尊敬していた。なぜなら、斎藤が、二十五歳のとき、日本全国剣道大会で優勝したからである。斉藤は香取神道流免許皆伝である。斉藤の得意技は居合術である。脚の強い斉藤は道場で「とびうお」と呼ばれていた。斎藤に決闘状を送って三方が原に呼び出した相手は、抜刀とともに飛び込んでくる斉藤の一太刀で倒れた。斎藤の愛刀は村正である。平之助の父、武田虎造が武田一家に草鞋を脱いだ斉藤に訊いたことがある。

「自分は、茨城大学の日本史科を出て希望の高校教師になりやした」
「ええ~?」と虎造が驚いた。学士号を持ったヤクザは稀少である。
「自分は生来、血の気が多く、因業な教頭に我慢が出来なかったのでありやす。一か月で教員を辞めやした。村正は剣道大会優勝のおり、鈴鹿の刀匠から頂いたのです。ただこの村正は出来損ないだそうです。身幅を大きくしたため、走り過ぎる欠点があります。ま、青龍刀に近いものとお考えください。ちなみに村正は戦国時代、伊勢桑名の刀工の名作。刀の姿は先反りがつき、切先が伸びている。平肉つかず鎬筋が高く身幅は尋常。茎(なかご)は刃側が張った「タナゴ腹」と呼ばれる独特の作り。直刃(すぐは)に湾れ(のたれ)を基調とする。古刀においては珍しく、表裏で焼きが揃うのが特徴である。総じて焼きが低い。また、互の目(ぐのめ)が混じる場合、互の目の頭が角張る。これを「箱乱れ」と言う。村正の切れ味は妖刀と名を残したのです」と解説をした。なんども使ったことばなのだろう。よどみがなかった。斉藤はハジキを後生大事に持ち歩くヤクザを見下げていた。討ち入るときは、村正を引っ提げて先頭に立った。敵にハジキを抜く余裕を与えなかった。飛び込むと身を沈めて下から斜め上に一刀のもとに斬った。飛び上がって面を斬った。その斉藤が腹を撃たれたことがある。それ以来、アメリカ製の防弾チョッキを着ていた。

斉藤万歳山が浜松の自宅を出て 遠州鉄道に乗った。新鹿島で天竜浜名湖線に乗り換えた。そこからひと駅の二股本町で降りて亀沼組に歩いて行った。斉藤はこの九月に押し寄せるニジマス釣りのファンに見えた。だが、釣り竿の袋に村正を忍ばせていた。天竜川の獲物は、あゆ、鱒、カジカである。ナマズや鰻もかかる。だが漁場は二股ではなく上流にある。
亀沼組は二股温泉にあった。三河の鬼瓦が見えた。いかにも任侠道を行くという構えである。斉藤がこの秋の晴天の日に亀沼鉄次を訪ねる目的は亀沼の首を刎ねることであった。亀沼一家は江戸時代からの天竜組の旗本である。常に戦闘の最前線を務めてきた。つまり切り込み隊なのだ。亀沼鉄次も剣士である。一心無双流居合道五段練士である。この流派は滋賀に源を置く。型よりも実戦を基本としていた。亀沼はその緑がかった目で刺すように人を見る。亀沼がその目で斉藤を見ていた。斉藤が玄関で仁義を切った。

「御敷居内、御免下され マシ。親分さまでございますか?手前、広島は村上水軍、八幡大菩薩、鯨神一家のサンシタ、兵頭和夫でござんす。御一同さま、御賢察の通り、しがなき者にござんす。後日に御見知り置かれ、行末万端、御熟懇に願います」と毛拭いに包んだ献上金を差し出した。

「俺が亀沼鉄次だ」と亀沼は仁義を返さなかった。斉藤が安芸(あき)者に見えなかったからである。それを見た子分たちが――ナンダ、ナンダと白木の日本刀を持って騒いだ。亀沼が手で制した。

「お前は武田組の斉藤だろう?庭に出ろ。俺が相手になってやる」と亀沼が子分の刀を左手に持った。その亀沼が驚いた。斉藤が黒鞘の村正を右手に持っていたからである。

「左ギッチョか?」
斉藤はそれに返事をせず脚を前後に置いた。亀沼は背丈が斉藤よりも頭ひとつ高い。ふたりは睨み合ったまま、二分ほど動かなかった。亀沼の呼吸音だけが聞こえた。
「キエ~」
「キエ~」
とびうおに亀沼が鰻のように割かれて前のめりに倒れた。

亀沼鉄次が斬られたことが日本全国に知れ渡った。新聞はこぞって斉藤の豪傑伝を記事に書いたが、どれも作り話であった。静岡県警は動かなかった。愛知県警も警視庁も動かなった。なぜなら亀沼に頭を悩ましていたからである。
「万歳さん、しばらく組から出ないでおくれ。おかみさんと娘さんは木曽組が匿った」と水嶋が言った。
「若頭、亀沼一家は鉄砲玉の巣窟でありやす。必ず報復するでしょう」と斉藤が言って水嶋に妻子のことを感謝した。
「水嶋、待っていてはいけない」と平之助が甲斐組の親分衆の会議を提案した。水嶋がリストを作った。
            続く
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連載小説 ピストル 第三章
第三章

「斉藤はどこの生まれか?」と水嶋が切り出した。
「手前、生国は武州、鹿島神宮は板前の倅でありやす」
「なぜ、武田組に入った?」
「テテオヤは鰻を捌く職人。飲む、打つ、買う、生涯、極道を極め、若くして三途の川を渡ったのでありやす」
斉藤は大学を出ていた。茨城大学で日本史を学び学士号を得ていた。高校の教師になる考えであった。
「斉藤、お前も鰻を捌けるのか?」
「齢(よわい)八歳より家業を手伝いましたので一応のことは出来やす」
「それで浜松へ来たのか」
「いいえ、女房が桶狭間の生まれ。それが理由でありやす」
「若頭の推薦だが、お前さんが俺に忠誠だという確証がない」と平之助が斎藤を詰めた。
「お坊ちゃん、手前は肝臓癌と医者に引導を渡されておりやす。あと一年の命でありやす。武田組にしがない極道の命を差し上げやす。見返りに女房と娘の面倒をお願い致しやす」
平之助と水嶋が驚いた。
「島田の舎弟だったね?」
「島田前若頭と兄弟の盃を交わしております」
「島田若頭は残念なことをした」と二股川の戦いを想いだした水嶋が目がしらを抑えた。
「斉藤、お前さんはいくつかね?」
「生まれ未年、今年で四十八の愚か者でありやす」
聞いた平之助が暫く目を瞑った。
「それでは頼みたいことがある」
「何でも仰ってくださんせ」

水嶋が斉藤の妻と娘の名前住所を台帳に書いた。平之助が小指を切り出しで切って血判を押した。翌日、水嶋が三下の青戸に和平の親書を持たせて天竜組に送った。白神辰治は青戸を手厚く持て成した。女を買って与えた。天竜組は天竜市にある。近代都市だが、ひと昔前と同じようにステッキガールという売春が自由に行われていた。二十歳の三下はしたたかに酔った。土左衛門の姿になった青戸が天竜川の河口で見つかった。天竜市警察は酔って河に落ちた可能性が高いと捜査を早々と打ち切った。勿論、天竜組の仕業と判っていた。水嶋は全面戦争を決意した。

           続く
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連載小説 ピストル 第二章
ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。コピーしないでね。コピー権に触れます。伊勢

ピストル

第二章

「武田君、君はヤクザになるのか?」と休学届けを受け取った山中教授が平之助をなじるように言った。
「この暗黒の世界では跡目相続を避けられません。ヤクザはヤクザで死ぬほかないのです」
「う~む」
「ボクは、この抗争が収まれば、武田組を若頭の水嶋に継がせる考えです。そして水嶋が全国組織である甲斐組の頭領になります」
「君は、名大に戻ると言うんだね?」
「生き残ったら戻ります。よろしくお願します」

跡目相続は遠州の掛川、袋井、磐田、浜松市の親分たちを招いただけで質素に終わった。秋野刑事と起動隊が警戒したが何も起きなかった。秋野がほっとした。武田平之助が甲斐組を仕切れると思う親分衆はいなかった。年齢ではない。大学に進んだ平之助には暴力団は無理だというのである。平之助はチームに入るスポーツをやらなかった。山岳部に入って、木曽岳や南アルプスを徘徊していた。平之助には彼女がいた。同じ法学部の長谷川京子である。京子は少年犯罪保護法を選んだ。平之助は暴力団対策法つまり民暴を選んだ。父の虎造には言わなかった。

平之助が若頭の水嶋鶴太郎を呼んだ。水嶋は黒い髪に白髪が混じる五十六歳の男である。子分たちは水嶋を尊敬していた。戦前、水嶋が鳥ノ海という十両ではあったが相撲取りだったからである。

「水嶋さん、裏切ると思われる組員のリストをくれないか?」
「お坊ちゃん、水嶋と呼んでおくんさい。寝返ると感じる者が百人はおります」
「誰が指導者ですか?」
「お父上の戦友で与座牛一です」
与座組は百人の小組である。つまり寝返りやすいのである。
「沖縄もんばかりだったね?」
「いえ、沖縄県以外の者も入っていますが琉球列島出身者です。あいつらの方言はわからんが、ウチナ~ンチュ(沖縄県人)と言っております」
「与座牛一はいくつですか?」
「五十五歳です」
「父の戦友が裏切るのですか?」
「親方と与座は硫黄島の生き残り。お坊ちゃん、あなたは戦友じゃない」
「う~む」
「どうして寝返ると思うの?」
「浜名湖の養鰻業者が与座の子分に強請られていると文句を言っております」
「強請りはご法度だったよね?」
「子分がしゃべった業者の娘を強姦したんです」
「水嶋、それでは、与座をどうすればよいのか?」
「しばらく泳がせて置きます。どのくらい根が深いのか判らんですから」
「水嶋、与座組にハジキを点検するから持って来いと言っておくれ」

ウチナ~ンチュたちが、女房よりも大事なハジキを机の上に並べた。ワルサー、ブローニング、スミスウエッソン、ルガー、レミントン、トーラス、ベレッタ、タンフォグリオ、、22口径、38口径が最も多く、9ミリが数丁である。

「お坊ちゃん、なぜ、ハジキの点検なんですかい?サツの耳に聞こえれば、ワテの組がお釈迦になりますぜ」
平之助が着流しの着物に雪駄を履いた与座の右腕がないことに気が着いた。

「いや、組員のハジキを見ておきたいだけです」と平之助がにっこり笑った。
「お前ら、ハジキを手に持ってみろ!」と水嶋が怒鳴った。百人がならんで自分の愛するガンを手に持ってポーズを取った。それを写真屋が撮った。与座牛一が嫌な顔をした。与座はブローニングを左手に持っていた。

「よし」と水嶋が言うと全員がハジキをトランクのなかに入れた。大番頭の石井が酒と肴を用意していた。やがて、酒宴が盛り上がって行った。その間、写真屋と助手が撮った写真を現像した。与座組はトヨペットクラウンを行列にして、上機嫌で帰って言った。
平之助と水嶋が印画紙を見ていた。平之助が赤鉛筆で三人の男の拳銃に丸を付けた。
「与座、玉城、慶良間」と水嶋が言った。その三人は左ギッチョであった。

「だが警視庁は22口径と断言した」
「隠し持っていると思んます」
「水嶋、これを秋野刑事に見せてもいいか?」
「いや、待ってくだんせ。警察が入ると他の組も捜査される」
「わかった、すると天竜組の中にスパイを置くほかない」
他に裏切る組はあるのかと平之助が聞いたが、他の組は先代からの遠州木曽の直参旗本。寝返ることはないと水嶋が保証した。だが所詮ヤクザの世界、戦況が悪くなれば保証はないのである。

             続く
02/08
小説「ピストル」の連載
ここんとこ忙しいいので、自分が書いた小説・ピストルを連載します。これを読んでいてください。コピーしないでね。コピー権に触れます。伊勢

ピストル
 
徳川家康と武田信玄の天竜川をめぐる戦いは三百八十年前の戦国時代である。一五七二年の三方ケ原(浜松市)の戦いでは、家康が信玄に大敗した。そして、一九五五年未(ひつじ)年の夏。天竜組と武田組が再び、天竜川をめぐって抗争を始めた。水源をめぐってではなくウナギの幼魚「シラス」の漁場をめぐる抗争であった。
白神辰治は天竜組の若頭である。組長の荒山大鉄が白神を手塩にかけて育てたのである。荒山は白神を「辰治」と呼んだ。辰治は四十歳で妻子持ちである。荒山は辰治に天竜組を任した。対する武田組の武田平之助は自分の名前を嫌っていた。父親の武田虎造が武田組の組長である。平之助は虎造が目に入れても痛くない立ったひとりの倅である。虎造は平之助を大学にやった。やくざ稼業は自分一代と決めていた。その虎造が銃弾に倒れた。やったのは天竜組の白神だと噂が立った。平之助は大学を中途退学して跡目を継いだ。
白神辰治と武田平之助の血で血を洗う攻防戦が始まった。中学も出ていない白神辰治か?名古屋大学を中途退学した武田平之助なのか?遠州の親分たちが息を飲んで見ていた。なぜなら天竜川を制す者が遠州のドンになるからである。

第一章
「武田君、君のお父さんが撃たれた」
血の気をなくしたような顔色の山中教授が講堂についたばかりの武田平之助に伝えた。
「先生、父は生きているのですか?」
山中教授が沈黙した意味を平之助はすぐに悟った。一筋の涙が平之助の頬を伝って床に落ちた。
「武田君、警視庁の暴力団対策特務課長から電話があった。君に東京へ来て貰いたいと言っている。断れる雰囲気ではなかったな」
「先生、父が銃撃されたのです。ボクも危ないと思う」
「愛知県警の刑事が君に随行してくれるそうだ。もうすぐ来られる」
名古屋総合大学こと名大の学生はお洒落ではない。特に法学部の学生たちは、カジュアルなのである。秋野刑事が黒いトヨペットクラウンから降りた。三人が名を名乗った。平之助が刑事と後部座席に座るとセダンが学園を出て行った。刑事が改めて名刺を出した。秋野満月という変わった名前である。平之助がそう言うと秋野が笑った。
「武田さん、あなただって、風変りな名前ですよ」
二人はすぐに仲良くなった。
八月の東京は名古屋に退けを取らないほど蒸し暑かった。だが死体安置室は鳥肌が立つほど寒かった。
「拳銃で至近距離から撃たれたのです。犯人は左ギッチョだと思います」と解剖医が虎造の右のこめかみの弾痕を見せた。銃弾は斜めに貫通していた。武田虎造は目を固く閉じていた。平之助が目にハンカチをあてた。
「組員がいたはずですが」
「犬塚というガードも眉間を撃たれて即死しました」
「犬塚だけですか?」
「いいえ、外の車で待っていた三人の組員はガソリンをかけられて焼け死んだのです」
秋野刑事があまりにも警察をなめた残虐な殺人にいつもの冷静さを失った。横の平之助を見た。平之助の顔には何の変化もなかったので驚いた。
「いつ、父の遺体を引き取れますか?」
「三十日間、お預かり致します」
平之助と秋野刑事は警視庁を出た。タクシーを拾わず地下鉄で銀座へ出た。みゆき通りの鰻屋「天竜」の暖簾をくぐった。平助が秋野を誘ったのである。割烹の亭主が挨拶にきた。そして座敷に案内した。鰻重、肝吸い、ビールを頼んだ。
「秋野さん、あの弾痕を見ると小型拳銃じゃないかと思いました」と平之助が再び涙を流した。
「22口径、フルメタルジャケットだと見ているそうです」
平之助はホロウトップとフルメタルジャケットの違いを知っていた。ホロウトップは弾の先端に穴が空いている。撃たれるとその先が朝顔のように開いて被害者は確実に死ぬ。
「武田さん、質問してもいいでしょうか?」
「それ、刑事さんのお仕事でしょ?」と二十四歳の大学生が笑った。秋野は三十後半の歳である。
「あなたは、武田組の跡目を継ぐのですか?」
「判りません。ボクは暴力団には向きませんから」
「学校は法学部ですね?」
「そうです。あと一年で卒業します」
「弁護士になられることを勧めます」
鰻重と肝吸いがきた。秋野が平之助のコップにビールを注いだ。平之助が一気に飲み干した。
「天竜川合戦というのは、ウナギの幼魚シラスの漁場争いですが、あなたは、ウナギに関心があるのですか?」
「武田組一万人の飯の種なんです」
「どのくらいの収入があるのですか?」
「年収、二百億円だと父が言っていました」
靴の底が減るほど歩き回り、その挙句に月給と夜間勤務や出張手当てを合わせても年収が二百万円に届かない刑事の収入は暴力団員の報酬には遥々、届かないのである。
「武田さん、天竜組の組員は三万人です。勝てるのですか?」
「いや、勝てません。天竜組は武田組とは比較にならないほど養鰻も鰻問屋もやっていて資金は豊富なんです」
「和解の手を打ったらどうですか?」
「白神辰治は応じません。あくまでも武田一家を滅ぼす計画です」
「甲斐組が全国の親分衆を統合した名前なんですね?」
「そうです。ボクの父は武田組の組長だったんです。武田組の組長が、関西、四国、九州、鳥取、島根のウナギヤクザの総元締めになるんです。総じて、甲斐組と昔から言います」
「荒山大鉄は?」
「白神に全てを任せています」
「すると、全面戦争とお考えですか?」
「そうです」

                          続く
02/07
お父さん、お母さん、ボクは旅をしている、、


モンゴルの歌なんです。「亡くなった父母が、安全な旅をと言ってくれている」と言う歌詞だけど、こんな美しい調べを聞いたことがない。この弦楽器は馬頭琴という。伊勢夫婦はトルコでも、キリギススタンでも胡弓の悲しい調べを聞いた。トルコは突厥というモンゴルの親戚だし、キリギスタンなどもモンゴル系なんですね。モンゴルは仏教だけど、トルコもキリギスタンもその南の東トルキスタンもイスラム教徒なんです。詩情に富み、人々は優しく礼儀が正しいんです。馬、鷹狩り、琴が共通なんです。これほど伝統文化に富む国は世界にはない。詩情と言えば、日本は松尾芭蕉、平家物語、演歌。アメリカが一番遅れていると思う。伊勢
02/07
中国の挑発、、
大敗に繋がる中国の挑発、、



盛んに中国が尖閣海域で日本に挑発しているけど、伊勢の知っている在日米軍関係者は次のように考えているんです。

<日本は核を持つべきですが、尖閣で中国海警が発砲や漁船に体当たりすれば、海保も発砲する。エスカレートすれば海自の駆逐艦が出ます。米海軍が中国海警の後方を断ちます。中国はこれを知っている。これ常識です>

他力本願、、

日本の政官民のことです。これもクチが酸っぱくなるほど言って来た。付け加えることはないです。

senjyutukaku sub

この画像で解るはず。海自の潜水艦に水中から発射できる核弾頭です。これで、ようやく、日本は黒船来航の時代よりアメリカに振り回された雌雄の関係を断ち切れる。伊勢には自民党のアメリカを旦那とする姿勢がわからない。トランプに取りすがった安倍晋三が最低だった。

日本の核武装に賛同してください、、

基本的には百円募金なんですが、手数料に440円も取られると一有権者先生から注意がありました。それなら、手数料を含む「千円募金」にしますね。伊勢には銀行や郵便局を太らす考えはない。もう少し知恵を絞らないといけないと思っているけど。伊勢

A) 振込口座

1)金融機関   みずほ銀行・上大岡支店・支店番号 364
2)口座番号   (普通)    2917217
3)口座名    隼機関   ハヤブサキカン

B) 郵便局口座

1)口座番号  10940-26934811
2)口座名    隼機関   ハヤブサキカン

*ご献金後、NIPPONFALCONS@GMAIL.COMへ、ご氏名(HN・匿名も可)・ご連絡先・金額・送金日付けをご一報下さい。照合の目的です。個人情報は、伊勢のみが管理仕ります。

「募金の目的」

1)チームを作り、アメリカ国防委員会(NSA)に「日本は核武装が必要」と請願する為です。
2)ホームページ管理人の経費、通信費、広告費、旅費など。集まればだけどね。
3)和英のYOUTUBEを作成します。

*現在、伊勢は在日米軍基地の燃料タンクの修理塗装の認証を受ける準備をしていて、一月二十日に終了予定。動画を立ち上げるのは、二月です。

以上、よろしく、皆さまのご協力をお願いします。在米54年、これが伊勢の最後の祖国日本への奉仕かな。伊勢

献金記録

*一有権者先生が二千円を寄付してくださった。献金第一号です。
*オオマエ・ヒトシさんが本日500円を寄付してくださった。勇気付けられました。献金第二号です。

02/06
バイデン民主党の大勝利、、


昨日、第三段目$1.9兆ドルのコロナ国民救済法案が採決された。共和党上院議員50名は全員が反対した。民主党上院議員50名全員が修正案を通して賛成した。カマラ・ハリスは、副大統領の権限であるタイブレーカーの一票を投じて法案が採択された。結局、バイパーチザンは出来なかったけど、伊勢は満足です。バイデンは大統領に就任して2週間で大業を為した。直接給付の$1400は3・10までに郵送すると。他に目だったのは、最低賃金を引き上げないこと。違法移民には給付しないこと。パイプライン中止で失業した人々には特別な救援なし。メキシコ国境の壁にはカネを出さないことなどを決めたんです。伊勢

国防予算$980ビリオンの使い道、、

トランプがドイツから引き揚げた米兵を再び戻すことや在日米軍の予算の使い道に対して、バイデンは3月に提案するんです。大統領が代わるとこれが起きるけど、問題はないんです。米軍にとってチャイナは玩具の軍隊なんです。尖閣もコケ脅しと思って良いです。実際に侵攻できるならやって見ろ!とね。艦隊で押し寄せるなら後方を断ち切る。日本政府は尖閣の持ち主であった日本人から買ったわけです。明らかに日本の領土です。日本政府は言葉で主権を主張せず、日章旗を立てるべきなんです。言葉よりも実行。それさ、実効支配って言わない?伊勢

バイデンの支持率は61%、、

歴代の大統領のトップ。民主党やリベラルの評論家から「偽善だ」とか批判が出てきたけど、本人は一言も言い返さない。評論家に関わっている時間がないということです。バイデンは実行家なんです。バイデンの閣僚やスタッフはバイデンの指示など不要なんです。イエレン財務長官は一言も言わない。黒人前陸軍将軍の国防長官は無言実行なんです。バイデンはワクチンを急いでいる。伊勢

02/05
尖閣に日章旗を立てるとき、、


この八月、在米55年になります。伊勢は生涯現役です。在日米軍基地関係の仕事をしています。新任の国防長官は前軍人なんです。台湾海峡に駆逐艦ジョン・マケインを送ったことはベストです。日本は尖閣に日章旗を立てるべきなんです。日本政府は抗議ばかりをしていないで、日の丸を立てるなど態度をはっきり示さないと中国を増長させます。中共軍が攻めて来たら、米海軍が後方を断ち切ります。これは前に書きました。菅・麻生はアメリカにすっかり頼っている。恥と言う言葉も知らない連中です。伊勢
02/04
全て麻生が原因、、


まあ、藤井さんがおっしゃる通りです。付け加えることはないです。

他力本願、、

日本の政官民のことです。これもクチが酸っぱくなるほど言って来た。付け加えることはないです。

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この画像で解るはず。海自の潜水艦に水中から発射できる核弾頭です。これで、ようやく、日本は黒船来航の時代よりアメリカに振り回された雌雄の関係を断ち切れる。伊勢には自民党のアメリカを旦那とする姿勢がわからない。トランプに取りすがった安倍晋三が最低だった。

日本の核武装に賛同してください、、

基本的には百円募金なんですが、手数料に440円も取られると一有権者先生から注意がありました。それなら、手数料を含む「千円募金」にしますね。伊勢には銀行や郵便局を太らす考えはない。もう少し知恵を絞らないといけないと思っているけど。伊勢

A) 振込口座

1)金融機関   みずほ銀行・上大岡支店・支店番号 364
2)口座番号   (普通)    2917217
3)口座名    隼機関   ハヤブサキカン

B) 郵便局口座

1)口座番号  10940-26934811
2)口座名    隼機関   ハヤブサキカン

*ご献金後、NIPPONFALCONS@GMAIL.COMへ、ご氏名(HN・匿名も可)・ご連絡先・金額・送金日付けをご一報下さい。照合の目的です。個人情報は、伊勢のみが管理仕ります。

「募金の目的」

1)チームを作り、アメリカ国防委員会(NSA)に「日本は核武装が必要」と請願する為です。
2)ホームページ管理人の経費、通信費、広告費、旅費など。集まればだけどね。
3)和英のYOUTUBEを作成します。

*現在、伊勢は在日米軍基地の燃料タンクの修理塗装の認証を受ける準備をしていて、一月二十日に終了予定。動画を立ち上げるのは、二月です。

以上、よろしく、皆さまのご協力をお願いします。在米54年、これが伊勢の最後の祖国日本への奉仕かな。伊勢

献金記録

*一有権者先生が二千円を寄付してくださった。献金第一号です。
*オオマエ・ヒトシさんが本日500円を寄付してくださった。勇気付けられました。献金第二号です。

02/03
上級国民、、


飯塚幸三は89歳だという。この人間は人殺しです。日本の為政者らも、官僚も、弁護士も自分は上級国民だと思っているんではないかと思うね。裁判官の表情が気になる。冷たい人間に見える。法律を扱うことは深刻な仕事だとは思う。しかし、被害者に人間として言葉を掛けるべきだろう。

日本の社会は平等ではない、、

そう言うと、「アメリカは平等な国か?」と言い返されそう。伊勢は、アメリカ人はフェアな人々だと思うことが多い。アメリカ人は権威をひけらかさない。男女年齢に関わらず全く平等に付き合う。では黒人は?黒人問題は経済格差、知能指数、家庭崩壊、犯罪それも暴力、強姦、強盗殺人が多いなどが原因なんです。日本に戻ると、小企業は別として、大企業は非情です。トヨタも読売もね。平等でない根本原因は司法にあると思うね。

国防が最も重要、、

伊勢は高校時代から核保有論者です。池袋暴走事件の裁判官を観察していると、「ああ、こういう人たちが核保有に反対するんだな」と思った。たぶん、国会議員も、日教組も、大学の教授も、NHKも、九条の会も、広島長崎の市民も反対なんでしょう。それで良いなら伊勢の出る幕はない。伊勢
02/01
ネガテイブ、スパイラル、、


バイデンは、$1.9兆ドル(200兆円)の第三段目救済法案を民主党単独でも通すように促した。この中には直接給付金$1400が入っている。その理由は、ネガテイブ、スパイラルという底なしの地獄に落ちるからなんです。

yellen warns

前連銀議長だったイエレンさんはバイデンの財務長官となった。「私は救済金が少ないことを懸念している」と述べた。インフレの兆候はなく、逆にデフレの何十年だろうとも言った。読売カリホルニアの経済リサーチャーをやった伊勢もそう思う。二度、インタビュウをしたミルトン・フリードマン(没)は「借りれるだけ借りて良い」と言った。正しかったとなるね。麻生はそう思わないようです。国民を犠牲にして自分や経済界を優先しているね。伊勢
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