2015/08/18 (Tue) 連載小説「憲兵大尉の娘」(12)
tientsin nippon sokai 1937

天津駅に着いたとき、あたりが薄暗くなっていた。腕時計を見ると七時だった。葫蘆島北駅から五百キロ来ていた。天津駅は、レンガで出来たどっしりした建物だ。二人が階段を降りたところで、黒いダッジのセダンのドアが開いた。長谷川は、運転手が士官であるとすぐ判った。革のベルトに南部拳銃のケースが見えたからだ。二十分も走ると、天津市旭街に入った。日本疎開である。天津は洒落たな町なのだ。教会のように見える建物があった。だが、百貨店だと仕官が言った。この街が洒落ている理由は、かって清朝最後の皇帝溥儀が住んでいたからである。外国租界は清国がいかに弱国だったかということなのだ。1915年、大隈重信が要求した21か条が最大で、欧米も1900年の義和団の乱(北清事変)以来、天津に租界を作っていたのである。欧米も日本も、1912年、孫文の中華民国が出来てからも出て行かなかった。つまり、外国の権益とはそういうものなのである。そのことを当時の漫画がもの語っている。





ダッジは、和平路の加藤洋行の本社の前で停まった。チョビ髭を生やした社長が出て迎えた。丸い目が笑っており、いかにも商売が上手という顔である。向かいにホテルがあった。加藤洋行が持っているホテルなのだ。

「加藤洋行は貿易会社ですか?」

「ホテルで説明する」

二人は溥儀の妾のひとりが住んでいたという豪華な部屋に案内された。

「長谷川中尉、その服装ちょっとまずいな」と飛鳥が笑っていた。

「この竹篭なんとかなりませんかね?」と冗談を言った。

「加藤洋行は大事じゃないが、少尉は、湯玉麟(とうぎょくりん)を知っているかな?」

「何か怪しい名前ですね。精力絶倫と聞こえます」と笑った。


飛鳥が地図を指さしながら、四年前の戦争を語った。

「熱河省の首領であった馬賊上がりの湯玉麟が前年の満州国建国会議で署名したにも拘わらず抗日に寝返った。日本軍の第8師団が熱河作戦を発動した。湯玉麟は金銀財宝とアヘンなどを天津租界に送って逃げた。日本軍と一戦も交えずに逃亡したんだ。これにより、日本軍は、僅か128名の騎兵により、熱河省の19万キロ平方メートルの領土を満州国に併合した」

「はあ?その湯玉麟は今何処に潜んでいるんですか?」

「先月、天国に召された」と飛鳥が大笑いした。

「尾行していた密偵は消えたんですか?」

「この日本租界を奴らも避けている。領事館を爆破したおかげで関東軍が広島第五師団を北平に送っているんだ。この天津にも駐留している。俺たちを送り込んだんだ理由もそこにある」

加藤洋行の社長と社員が食堂に現れた。会議用の個室の扉を給仕が閉めた。従業員は言わずとも知れた日本人である。戦時中かと疑わしくなるほどの天津料理の宴会だった。

「社長さん、お久しぶりです。わたしの右にいるのは長谷川憲兵少尉です。南京の事情を聞かせててください」と言うと、その大柄な社長は、「上田です」と若い長谷川に頭を下げた。いかに、憲兵少尉の権力が強いかという証拠である。長谷川は始めて階級の重さを知ったのである。そこで、小さく会釈を返した。

                               *

上田社長の話しに長谷川は驚いた。横を見ると飛鳥大尉は静かな表情で傾聴していた。自分には全てが新しい出来事で胎すらも据わっていない。古年次兵との違いを知った。長谷川が手帳を取り出した。九月五日のページを開いていた。畿内丸が小樽の埠頭を離れてから、二週間が経っていた。

「陸軍飛行隊が太原を空爆したのをご存知ですか?」

「盧溝橋から四日後ですね」

「よくお判りで、、ただそれは大連の周水子陸軍飛行部隊六機の戦闘機で華北省の国民革命軍を空爆したのです」

「内閣情報部は関東軍を敬遠しているが、何しろ北支方面軍の大将は、関東軍の参謀で満州国を建国された板垣征四郎さんですからね」と言ってから地図を広げた。


sansei sho china


「盧溝橋の後、一時停戦に合意していた国民革命軍が通州事件を起こした。七月二十九日の通州事件から十日で北平に入城した広島第五師団の第三歩兵連隊は隣の山西省の石家荘に向かっています。二部隊に分れて、ひとつは大同~五台山~太原へ、、もう着いたはずです」

聞いていた長谷川が、その七月の末、旭川から八甲田温泉に帰った日を想い出していた。「こんなことが起きていたのか?」と平和な故郷の家族を想った。

(註)通州は北平(北京}の東の地区で日本人居留民三百八十名が住んでいた。ほとんどが商店や日本食の店を経営していた人々である。そのうち二百二十三人が殺された。東京日日新聞は1937年7月31日付号外で「惨たる通州叛乱の真相・鬼畜も及ばぬ残虐」と事件を報道した。筆者もこの通州事件を文字にする勇気はない。この事件の写真は見るに耐えないものです。ナチスでもこのような猟奇的行為はなかった。因みに南京虐殺記念館の写真の一部は通州猟奇虐殺事件の日本人居留者のものだと指摘されている。


「うむ、山東省から真横に並んでいる太原と石家荘を見ると、一大作戦が見える。国民革命軍を南に追いやる作戦だろう。板垣さんらしいな」

「山西省は、その名のとおり山が連なっています。政治の中心から離れているので、日本軍に敵愾心がないのです」

「はあ?」と長谷川が言うと、みんなどっと笑った。

                             ~続~


故事来歴~脚注~加筆訂正は、脱稿した後になります。この(12)に出てくる歴史は、一冊の本になる膨大な資料なのです。歴史を語ることが主旨ではない。歴史はあくまでも背景なのです。このストーリーは、戦場を駆けめぐった日本陸軍憲兵大尉、長谷川道夫の生涯を通して日中戦争を描くものです。よって、不足な点をお許しください。みなさんのご感想をください。伊勢平次郎 ルイジアナ







ということで、海外広報に、ご献金を頂きたい

日本人で、伊勢一人がブルームバーグ紙で論戦している。アメリカ人は100%伊勢の「中国批判」に賛成なのです。とくに、日本に配備された米海軍軍人はね。「日本海軍は兵士も艦船も中国海軍よりもダントツに優れている」と書いてくれた。だが、今日はアメリカを批判した。

Iseheijiro • 9 hours ago
Japan is a sovereign nation and the closest ally to the US. Japan is not a lapdog of US. They agree if the US request is legitimate such as Okinawa bases. Majority of Japanese oppose Abe's reinterpretation of their constitution. They claim there is not enough explanation to change. However, that is not the real reason. Japanese public does not trust US from time to time. For example, George Bush's private war with Iraq 2003, another is Hiroshima/Nagasaki atomic bombing that killed innocent civilians August 1945.


A) 振込口座

1)金融機関   みずほ銀行・上大岡支店・支店番号 364
2)口座番号   (普通)    2917217
3)口座名    隼機関   ハヤブサキカン

B) 郵便局口座

1)口座番号  10940-26934811
2)口座名    隼機関   ハヤブサキカン


*7月30日、MIZ・TAKさまから、20、000円~ 7月25日、SHO・KATSUさまが、5、000円を下さった。7月23日、YA・HIさまが、10、000円を下さった。WA・EIさまが今月も(毎月)、1000円の寄付を下さった。たいへん感謝しています。有難うね。日本はまだまだ、経済も、国防も、米国政府の援助が必要なのです。伊勢爺の論戦はそこに重点を置いたものです。アメリカを批判するのも、アメリカに失敗されたくないからです。伊勢


宝田明さんにメールを出した

[ メッセージ ]
隼速報の伊勢です。ぼくも1941年、新京で生まれました。一家七人は終戦一年前に日本へ帰りましたが、兄三人は学徒出陣と予科練へ行きました。みな生還しました。「満州を掴んだ男」が現在集英社の手にあります。出版はわかりません。応援してください。ブログで「憲兵大尉の娘」を連載中です。是非、ご覧ください。


comment

kenji先生

あなたのお父さんと話したかった。蒋介石は上海の野犬です。国民革命軍とか重慶軍とか色々と名前を変えた。 この中華民国国軍には憲兵などなかった。だから、通州猟奇虐殺事件。何故、日本政府は南京虐殺を世界中に宣伝する中共矢それを許したアメリカに「通州事件」で対抗しない?日本人は「沈黙は金」だと思っている。現実から逃げている。ぼくは、「私は貝になりたい」を想い出す。伊勢
2015/08/18 21:39 | 伊勢 [ 編集 ]

以前にも投稿したと思いますが
<お父さん、通州事件しっている>
<おお、通州事件、あれが支那との戦争を決定付けた>と答えた。同時代はそのように思ったでしょう。
 もともと、満州事変は天皇大権を侵害した事件で、統帥権干犯でした。当時の記録を読むと一方ではゼロ戦をつくル様な世界があるかと思うと一方には江戸時代と変わらない世界があった、この大きな矛盾が戦前の混乱を引き起こした。
 軍人だけでなく、多くの人が翻訳語で西洋文明を理解して、いろいろ作ったがやはりそれは翻訳語のもので、大和言葉で理解したものではなかった。
 これは今も同じで、父親に<コンプライアンスとはなんだ>と聞かれたとき、こまっって、<正直に仕事をセよということだよ>とこたえたら、不思議な顔をした。
 その表情が忘れられない。戸惑ったような怪訝な表情だった。
 
2015/08/18 21:11 | kenji [ 編集 ]









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プロフィール

伊勢平次郎

Author:伊勢平次郎
 
伊勢平次郎はペンネーム。アメリカへ単身移住してから50年が経つ。最初の20年間は英語もろくに話せなかった。英語というのは、聴き取りにくく、発音しにくい厄介なものだ。負けん気だけで生きた。味方を作ることが生き残る道だと悟った。そのうち、コロンビア映画、スピールバーグ監督、トヨタ工場、スバル・いすゞ工場の北米進出、日本の新聞社に雇われた。2013・6 冒険小説You Die For Me アブドルの冒険(邦題)をアマゾンから出版した。昨年のクリスマスには、King of Pepper(英語版)胡椒の王様を出版した。日本、英国、デンマーク、ドイツの読者が読んでくれたわ。妻のクリステインと犬2匹で、ルイジアナの湖畔に住む。

写真は、ハヤブサ F. p. japonensis。カタカナで書かれる。瞬間飛翔速度は、時速300キロという猛禽。

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