2015/09/12 (Sat) 暴走列車


暴走列車とはチャイナのことだ。シテイ・バンクのCEOが「チャイナは、完全にコントロールを失った。経済成長率をいじくっているが、実際は4%かそれ以下だろう。チャイナは、確実に後退する。だが世界不況にはならない」とBBのインタビューに答えたのである。別の記事では、「チャイナとUSは攻守の位置が変わった。チャイナはアメリカ頼みなのである」と(笑い)。伊勢平次郎 ルイジアナ






連載小説「憲兵大尉の娘」(37)

表紙憲兵大尉の娘_convert_20150830145240


(37)


st sofia harbin cathaderal

「ユダヤ教のお正月はいつなの?」

「九月なのよ。三月まで祭日はないの」

「でも、クリスマスは?」

「キリスト教じゃないから。教会に行きたいの?」

「日本の田舎は、お釈迦様のお寺だけだから。滅多に教会やお祈りをすることがない」

「今日から新年まで領事は日本にお帰りになる。私たちも冬の休暇なのよ。

カレンと長谷川がペチカの燃える居間で話していた。飛鳥はひとりで唐人街へ行った。飛鳥には息子がいると言っていたから、何か送るんだろう。

「昼のミサに行く?」

「そうだね。行こう」

カレンはミンクのコート~長谷川はハルピンの市民の姿にソフトをかぶった。ふたりはハイヤー会社に歩いて行った。今日も小雪が降っている。窓からイリヤが見ていた。手をつないでいないので、イリヤはひと安心した。長谷川が上着の内側に吊った南部を感じた。胸の中で、自分は憲兵少尉なのだと言い聞かせていた。カレンが長谷川をじっと見ていた。

「なにを考えているの?」

「何も」

「今日は私のことだけ考えて。明後日、私は21歳になるの」

初めての愛の告白であった。長谷川はカレンをじっとみて頷いたのである。ソフィアスカヤの広場でハイヤーを降りた。石段を登って伽藍の中に入ると、ローソクの光りでキューポラの天井の天使の絵が見えた。その周りを聖人が取り囲むんでいる。二人共、ロシア正教のキリスト教徒ではない。カレンが口にハンカチを当てて咳をした。お香の匂いにむせたのだろう。二人は儀式を信者の後ろに立って見ていた。長い時間が経ったように思えた。鐘楼の鐘が鳴った。外へ出ると群集が抱き合って頬に接吻をしていた。長谷川がカレンを引き寄せた。そしてカレンの林檎のような頬に接吻をした。長谷川が自分に驚いていた。――自分は、ロシアナイズしたのか?それとも自然なのか?

「何処へ行く?」

「ロシアン・テイー・ルームに行かなあい?お土産コーナーもあるから」


russian cake

ショーケースの中をカレンが覗いた。どれも甘そうで面白い図柄なのである。そのうちの一つを指さした。何の絵かわからないが、どうもサンタクロースのようである。カレンが振り返って「これでいい?」と言う風に長谷川を見た。店員が皿に載せた。コーヒーを頼んで、テーブルに着いた。お土産コーナーで、紫色の切り子ガラスのお皿をイリヤに買った。

店の中はソフィア教会から来た人たちで一杯であった。長谷川がジャンパーを着たアイリッシュ・キャップをかぶった男を見て、「何処かで見た顔だな」と思った。想い出せなかった。その中年の男も見ぬふりをしていたが、長谷川は視線を感じていた。「トイレに行く」とカレンに言って立ち上がった。やはり男がチラッと見た。

トイレに入った長谷川が南部をホルスターから抜いてクリップを確かめた。カレンに出よう」と言って手を取った。カレンの頬が火が着いたように赤くなった。店を出てからも手を放さなかった。カレンを引っ張るようにどんどん歩いた。

「どうしたの?」

「ビアホールの角を曲がったところで、やはり角を曲がる数人の足音がした。美術店のウインドウにあの男の姿が映った。長谷川がカレンの手を引っ張って走った。カレンが氷に滑って倒れそうになった。切り子の皿が飛び散った。長谷川がカレンを抱きかかえて走った。ウエストが細く意外に軽い娘だと思った。

二人は、トラックの陰にしゃがんだ。カレンが怯えていた。石畳の上を足音が近着いて来る。足早になっている、、長谷川が外套のボタンを外した。カレンに手まねで腹ばいになれと、自分から腹ばいになった。カレンの顔の下に自分の帽子を入れた。そして、94式南部を引き抜いた。安全子を落として、ハンマーを引いた。


nanbu baby 7mm


追ってきた男たちは3人であった。一人がトラックの陰から顔を出した。長谷川は「このへんだろう」と照星(しょうせい)を定めていた。ふたりの男が姿を現した。手にピストルを持っている。その瞬間、長谷川が引き金を引いた。発射音が空気を裂いた。カレンが悲鳴を上げた。一人が驚いたように仲間を見た。――当たらなかったのか?数秒して男が前のめりに倒れた。アイリッシュ・キャップの男が助け起こそうとした。長谷川が銃口を20センチ下げた。撃ったが右肩に当たったようだ。今度は、銃口を左下に下げて両手で撃った。ジャンパーはまだ立っている。数秒してからドタっと倒れた。三人目は逃げた。

カレンを見ると、人間が目の前で死ぬ恐怖で唇が真っ青だった。長谷川が抱き起こした。カレンが長谷川の首に両腕を巻いた。長谷川がその唇に接吻をした。

サイレンの音が遠くで聞こえた。ハルピン市警だろう。足早に歩いて中華料理店に入った。カレンが化粧室に行った。二人の満人の警官が入って来た。店の中を見渡すと真っ直ぐ長谷川のテーブルに歩いて来た。「リーベンレン(日本人)?」と誰何した。長谷川が襟章を見せると顔を見合わせて出て行った。二人は、ソフィア教会へ行って、ハイヤーに乗り込んだ。同じ運ちゃんであった。カレンは、館に帰るまで長谷川の手を握っていた。「今日の出来事をママに言ってはいけない」と長谷川が、カレンの耳に囁いた。


部屋に入ると、飛鳥が「聞いた」と読んでいた新聞を置いて言った。

「誰にですか?」

「ウランだ」

「君たちの警備に出したが、ウランは地段街の百貨店のある通りで見失った。怪我はなかったか?」

「ありませんでしたが、南部の7ミリメーターはダメだと思います」

「知ってるよ。今、口径を大きくしている。銃身も長くなる。それまで、トカレフを使え」

科学者の長谷川は「日本の技術者は考えがチャチではないか?」と思った。

「私を狙った殺し屋は誰なんですか?」

「あのハイヤーの運転手は露探だ。後の者はゴロツキだろう」

「ゴロツキ?」

「逃げたからね」

「何故、私を狙ったのでしょうか?」

「陳王明を忘れたか?」

「復讐?」

「そうだ。ソ連中央情報局の面子をイワノフが潰したからね」

「どうして私と陳を繋いだのでしょうか?」

「われわれが牡丹江に来たことを陳が知らせたんだろう」

「なるほど。カレンも尾行されているのですか?」

「いや、彼女は領事館の隣のビルの地下道から領事館に入っているし出勤時間も自由となっている。さらに守られている」

「守られている?」

「私服の特高さ。それに領事館の横にハルピン関東軍憲兵分隊の駐屯所がある。恐くて、露探は近着けない」

「彼女のアパートは大丈夫ですか?」

「同じアパートの階下にその特高が住んでいる。カレンが出勤すると後ろから、ぶらぶらと着いて行く。いずれにしても、この仕事が危険なことを彼女は熟知している」

「何故、危険な仕事を引き受けたのでしょうか?」

「赤軍に追われたユダヤ難民は、杉原領事さんに恩がある。領事さんが辞めてもいいと言ったが、一年続いた。ドーチも命を賭けているんだ」


長谷川は、カレンと一緒に出かけることは、もはやないと思った。ドアをノックする音がした。開けると、カレンが「夕飯よ」と言った。いつもの天心爛漫なドーチに戻っていた。

                                *


1938年の正月が来た。飛鳥が新京の関東軍憲兵司令部に呼ばれた。

「戦況を聞いてくる。一ヶ月だ。機嫌よくやってくれ」と笑った。カレンが長谷川にスケジュールを書いて渡した。自分のアパートに帰って行った。翌日、領事が長谷川を新年会に招いた。

午後の三時に領事館に行くと、カレンも、イワノフも呼ばれていた。驚いたことに、イワノフが背広を着ていた。なかなかハンサムだ。招待客は日本企業の支社長夫妻たちであった。武官二人も夫婦で現れた。長谷川は堅苦しい宴会でないので安心した。片隅にバーがあった。バーテンがワイングラスを並べている。しばらく立ったままでワインを飲んだ。領事はシェパードを三頭飼っていた。大の犬好きなのだ。シェパードたちは、おとなしく座っていた。領事の奥様と娘二人が入って来た。和服を着ていた。全員が席に着いた。薄紫のドレスを着たカレンが長谷川の横に座った。菫(すみれ)の花のようである。何とも言えない気品がある。領事の娘が「まあ、美しいかた(女性)ね」と見とれた。

領事が新年の挨拶を行った。「妻も、娘たちもハルピンは初めてなんです。来てから買い物ばっかり行っています」と笑った。「この戦争が早く終わって、みなさんが平和に暮らせる日を祈ります。それでは、乾杯」と飲み乾した。おせち料理が次々に出て来た。イワノフを見ると布袋(ほてい)さんのように笑っていた。宴会は短かったが新春は気持ちがいい。カレンが領事がくれたお土産のお重を持っていた。カレンはスカーフを巻いていたので本人に見えない。長谷川の妻に見えた。またそのように振舞っていた。玄関に二頭立てのベルカが待っていた。御者はウランだ。カレン、長谷川、イワノフが乗り込んだ。ベルカが鈴を鳴らして雪の上を走り出した。

「少尉さん、明日の夜、何をしてます?」とイワノフが長谷川に訊いた。

「手紙を書くぐらいで何も予定はないよ」

「拳闘の試合があるんです。見に行きますか?」

「私も行く」とカレン。

カレンと長谷川が天龍公園で降りて歩いて館に帰った。密偵の尾行が気になったが、「組織が素人臭い。契約殺人だ。ジャンパーは死んだ。しばらくは襲撃はないだろう」と言った飛鳥を信頼していた。飛鳥は朝早く迎えに来たダットサンに乗って平房飛行場へ行った。

「少尉、これを読んでおけ」と封筒を渡した。部屋に入って封筒を開けると、――チャムスの満蒙開拓団の入植地の地図と便箋に「命令書」と書いてあった。「一月は、佳木斯(チャムス)へ行って貰いたい。イワノフとウランと三人で行け。行程はイワノフと相談しろ」と書いてあった。長谷川が居間へ行って、カレンに話した。

「佳木斯?恐くない所?」と心配で堪らないという目をしていた。

「全然。雪原の畑だけですよ」と笑った。

「いつ発つの?」

「イワノフと決める」


キタイスカやimg194

カレンが書斎からアルバムを持って来た。

「キタイスカヤ大街っていうのよ。今夜ここへ行くと思う。イワノフとウランはこの街に住んでる」

「どうして判ったの」

「私こう見えても暗号解読員よ。イワノフは移動式電信機で連絡してる」

「カレン、解読は勝っ手にしていいの?」

「私が解読して領事さんに渡すの。武官が解読したものと照合するから」

「僕にも解読文をくれる?」

「領事さんか武官の承認が要ります」

「僕がカレンからロシア語を習って解読が出来るようにって領事さんの要請でしょ?」

「そうだけど、私、おしゃべりだから」と笑った。

                            ~続く~



comment

名無しさま

ぼくが、この頃つくずく思うのは、オーストラリアの親日外交です。この日米豪軍の釧路沖演習ほど有難いことは日本にとってないです。その規模でなくて誠意の発露だからです。米豪は日本の真の友です。伊勢
2015/09/12 17:25 | 伊勢 [ 編集 ]

http://www.sankei.com/premium/news/150912/prm1509120001-n1.html

自衛隊・アメリカ軍・オーストラリア軍による共同訓練を、
ロシアが占領する北方領土近くの釧路で実施 

北海道東沖を震源とする巨大地震が起き大規模津波が発生したという想定で、
災害対処訓練「ノーザン・レスキュー2015」が先月26日から
30日まで、陸上自衛隊北部方面隊を中心に、釧路市などで実施された。

同訓練は昨年実施された「みちのくALERT2014」に続く、
国内における日米豪による共同訓練。人員3200人、車両300両、
航空機20機、艦艇2隻、無人偵察機3機などが参加。
また、在日米軍から人員40人と救難用ヘリ「UH-60」3機、
豪州軍から人員4人も参加した。
2015/09/12 14:36 | [ 編集 ]









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プロフィール

伊勢平次郎

Author:伊勢平次郎
 
伊勢平次郎はペンネーム。アメリカへ単身移住してから50年が経つ。最初の20年間は英語もろくに話せなかった。英語というのは、聴き取りにくく、発音しにくい厄介なものだ。負けん気だけで生きた。味方を作ることが生き残る道だと悟った。そのうち、コロンビア映画、スピールバーグ監督、トヨタ工場、スバル・いすゞ工場の北米進出、日本の新聞社に雇われた。2013・6 冒険小説You Die For Me アブドルの冒険(邦題)をアマゾンから出版した。昨年のクリスマスには、King of Pepper(英語版)胡椒の王様を出版した。日本、英国、デンマーク、ドイツの読者が読んでくれたわ。妻のクリステインと犬2匹で、ルイジアナの湖畔に住む。

写真は、ハヤブサ F. p. japonensis。カタカナで書かれる。瞬間飛翔速度は、時速300キロという猛禽。

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