2015/09/19 (Sat) こどもの国
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「日本は、こどもの国」だと思う48年間だった。つまり、日本人は、こどもなのである。「こどものままで居たい」ということだろう。そう考えれば、日本人がわかる。伊勢平次郎 ルイジアナ







連載小説「憲兵大尉の娘」第二部(44)

表紙憲兵大尉の娘_convert_20150830145240

(44)


shanghai nankin road 19338

上海の南京路である。上海租界から近いこともあって、スラム街ではない。日本の百貨店もあった。

「飛鳥大尉、第六師団からチェコ銃と写真が届きました」と長谷川が箱を見せた。花園大酒家のフロントに人力車を回してもらうように頼んだ。姑娘が「二人乗りは結婚式で出払っています」と長谷川に言った。

人力車が二台、玄関に着いた。車夫は親子に見えた。息子が父親を労わるので判った。長谷川が清太郎の健康を想った。

黄浦江沿いのカフェに着いた。アグネスがすでに待っていた。中国人を連れている。ひと目で軍人だと長谷川はわかった。ふたりは車で来ていた。カフェを出て、そのデトロイト製の黒いフォードに乗った。運転する男も兵隊だろう。西へ走った。二人の日本憲兵は拳銃をホテルに預けて来た。長谷川は、丸腰が心配になった。だが、相手は身体検査を必ずする、、「自動車修理なら何でもOK」と看板のある建物に入った。6人の男が鋭い眼つきで、箱を持って降りた長谷川を見た。飛鳥が長谷川を見て「奴らは疑っている」とウインクした。


chzeco riful

「古いな」と一人が言った。

「いや、これは名銃なんだ。買おう」

「何丁ある?」

「200丁だ」と飛鳥が答えた。富豪で取引監督業者のドイツ商人を入れて、現金と商品の交換を契約した。

再び、アグネスと運転手が黄浦江のカフェまで、憲兵ふたりを送った。飛鳥と長谷川は南のバンドに向かって歩いた。

「少尉、尾行されている」

「上海憲兵隊本部が500メートル先にあります。そのあたりで密偵は消えるでしょう」

二人はハイヤーの溜り場に行った。運転手に「南京路の百貨店へ行ってくれ」と頼んだ。百貨店で降りて店の中を見て廻った。飛鳥が、電池と細い銅線を買った。

「大尉殿、そのチェコはあるのですか?」

「ないよ」

「どうするんですか?」

「どうにもしない」

「南京路は危ないんじゃないですか?」

「そうだ。明日、われわれは杭州へ行く」

 
地図杭州の


杭州は上海から160キロ南である。杭州は銭塘江沿いの工業都市である。その銭塘江は貯水湖の千島湖を上流として、杭州湾に流れ込み、東シナ海に注いでいる。清時代から中国の最大の工業港であった。杭州湾は銭塘江の大きな三角江になっているためか、銭塘江は世界でも最大級の海嘯が起こることで知られ、高さ9mほどの波が時速40kmほどで川の上流へと遡る。特に中秋の名月の頃に大きくなるとされ、大勢の観光客が集まる。

上海から杭州行きの汽車が出た。途中、停車があるので、杭州駅に着いたのは真昼であった。4時間の快適な旅だった。車窓の風景は特記するほどのモノではない。

「杭州へ来た理由は?」

「上海を一時逃げただけさ」

「はあ?」

「それで、あの朝日の記者ですが。何か判ったのでありますか?」

「いや、何も出て来なかった。内閣の参与の地位に着いたひとだ。問題はない」

「上海に帰ったら、もうひとつ仕事がある」

「それを聞かせてください」

「上海に帰ったらな」

「今日は、ここから4キロ西の西湖へ行って泊まる。西湖の南岸に行く」

「何かあるのですか?」

「山寺だけだよ」と飛鳥が笑った。


の杭州浄慈禅寺

現在の浄慈禅寺である。


西湖は琵琶湖に似ていた。山、川、湖、、実に景観なのだ。二人の憲兵は乗り合い馬車で西湖へ行った。飛鳥が唐時代の詩人杜甫の詩を口ずさんでいた。「このひとは不思議なひとだ」と長谷川は思った。まったく、戦争の話をしない、、長谷川は小冊子を読むほかこの杭州を知る方法はなかった。馬車は「桃源郷大酒家」という旅館の前で停まった。数人が降りた。長谷川が御者にチップをはずんだ。「謝謝」と年寄りの御者がにっこりと笑った。


chaina lake moon

「今日のたびはこれでお終い」と飛鳥が頭陀袋を持って旅館に入った。速いが飯を食うことにした。長谷川はビールが飲みたかった。窓を開けると、五月のそよ風が入って来た。夕日の中に寺院が見えた。

「浄慈禅寺は日本の曹洞宗永平寺の本山なんだ。道元が、この寺の僧 如浄禅師の下で修業をしたのだよ」と飛鳥が言って、蛇腹の写真機を頭陀袋から取り出した。

ふたりは「唐園」と書かれた食堂へ行った。誰も、日本人だとは思わないようだ。飛鳥は金満家に見えるし、流暢な広東語を喋るからである。泥鰌髭に改造した長谷川はチベット人に見えたのである。

                              *

飛鳥が早く起きていた。二人は髭を剃り、唐園に行って山菜の粥を食べた。

「俺は座禅をするが、君はどうする?」

「は、お供します」

静寂の中の座禅は一時間だった。

「俺ね、こう見えても天台宗の坊主だったんだ」と飛鳥が長谷川を驚かした。

「どうしてですか?」

「俺の親は子供が次々と死んだので、歯止めに俺を坊主にしようとした」

「そのご体験は貴重です」

「その通り。人間の世界も宇宙のひとつと考えるようになった」

「奈良は日本そのものですから」

「そう、この浄慈禅寺も奈良京都も唐の時代に盛んになったんだからね」

名前から言って、禅寺なんですね?」

「そうだ。中国には5禅寺がある。この西湖畔の山に二つあるんだ」

「西湖十景」という名所がある。船に乗ろうか?」

                                 *

長谷川はなんとなく飛鳥の人間性がわかる気がした。実に、憲兵に似合わないひとである、、

                               ~続く~

comment

オリーブオイル先生

<日本は日本資産を無駄にしないためにも、もっと冷徹に賢く
ならなければならないと強く思います。

全てを言い得ていますね。NYの紀伊国屋に、昔の「ルーズベルトの刺客」というベストセラーを注文したのね。上海という魔都をアヘン戦争から日本の敗戦までを書いた。何かの賞を得た。ぼくと同じノンフィクション・ノベルです。なぜなら、日本の読者には、1)フィクションでは事実がわからない。2)ノンフィクションじゃ歴史論争に発展して、つまらない。1)の悪例が加瀬英明さんの「ムルデカ」や百田直樹の出鱈目小説です。2)は多く出ている。「キャラクターのない歴史は歴史じゃない」とマハトマ・ガンジーです。

日本が失った資産の最大が人命でしたね。現在の日本人は「もうこりごり」という一言で、前進する意思までも失っている。「現状維持」または「批判意外は、何もしない」というのが人生哲学。第一の欠点は「政府まかせ」です。これは、一種の「専制君主を望む」という「従う精神」を持っているとなる。ロシア人や中国人と同じ「あきらめ」ですね。「諦める心は負ける心」と言って置きます。またご説教をお願いします。伊勢
2015/09/19 14:38 | 伊勢 [ 編集 ]

接収された日本が大陸に残した資産は賠償金より大きかったはず。
満州国建設における日本の投資、その他の約100年間、
日本が注ぎ続けた中国、韓国への投資と援助、
そして現在の日本と中国、韓国の関係を考えると、
空しさと憤りを覚えると同時に日本人のお人好し加減にあきれます。

日本は日本資産を無駄にしないためにも、もっと冷徹に賢く
ならなければならないと強く思います。
2015/09/19 10:33 | オリーブオイル [ 編集 ]









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プロフィール

伊勢平次郎

Author:伊勢平次郎
 
伊勢平次郎はペンネーム。アメリカへ単身移住してから50年が経つ。最初の20年間は英語もろくに話せなかった。英語というのは、聴き取りにくく、発音しにくい厄介なものだ。負けん気だけで生きた。味方を作ることが生き残る道だと悟った。そのうち、コロンビア映画、スピールバーグ監督、トヨタ工場、スバル・いすゞ工場の北米進出、日本の新聞社に雇われた。2013・6 冒険小説You Die For Me アブドルの冒険(邦題)をアマゾンから出版した。昨年のクリスマスには、King of Pepper(英語版)胡椒の王様を出版した。日本、英国、デンマーク、ドイツの読者が読んでくれたわ。妻のクリステインと犬2匹で、ルイジアナの湖畔に住む。

写真は、ハヤブサ F. p. japonensis。カタカナで書かれる。瞬間飛翔速度は、時速300キロという猛禽。

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