2015/09/20 (Sun) こどもの国(その2)


井の中の蛙大海を知らず、、日本人の九割は視野が狭い。その原因は、1)一言語一民族~2)99.9%の国民が首相も含めて、日本語以外で、コミュニケーションが出来ない~3)日本列島以外で生きる能力がない~4)石橋を叩いて渡らない~5)モビリテイが徹底的に足りない、、つまり、蛇に飲まれる運命を選んでいる。その蛇とは、日本の大企業である。安倍政権は、その蛇に餌を与えた。伊勢平次郎 ルイジアナ






連載小説「憲兵大尉の娘」第二部(45)

表紙憲兵大尉の娘_convert_20150830145240

(45)


china zazen


飛鳥と長谷川は、桃源郷大酒家に三泊した。唐園で粥を食い~浄慈禅寺で座禅を組んだ。西湖河畔を遊歩し~石窟を見て歩いた。

長谷川が尾行されていると感じた。振り返ったが密偵の姿などない。ただ静寂と新緑の杜があるだけだった。

「尾行されていたがね、消えたよ。俺たちが人畜無蓋な巡礼と見たんだろう。外で、日本語を話してはいけない。クチの動きだけで日本人だと判る」

二人は再び、海抗線の乗客となった。

「少尉、さあ、日本語でどんどんしゃべれ」

「はあ、この海抗線ですが安全なんですか?」

「支那に安全地域などという処はないよ」と飛鳥が笑った。飛鳥の解説は以下であった、、

――揚子江以南を華中と言う。河北はご存知の北平から徐州あたりまでだ。去年の7月の盧溝橋事件~君とぼくは太原へ行った。12月には南京が陥落~今年1938年に入って上海戦が収まった。今、杭州まで日本軍の支配下なのだ。だが、国民軍による河北、華南の鉄道襲撃は止まない。完全に掌握しているのは満鉄だけだ。華南の交通というのは、農作物や工業製品の輸送なんだが、河川が多いので運搬船が8割だ。鉄道は旅客用と言えるね。

二人は汽車の中で背広に着替えてソフトを被った。長谷川は泥鰌髭を直した。湯を持って来た車掌が「こんにちわ」と言った。車掌も機関手も日本人である。

上海駅でハイヤーに乗った。運転手が支那人ではない。西洋人なのだ。

「あなたは、何人なの?」と長谷川が英語で聞いた。

「ユダヤ人です。ポーランドから来たんです。何処へ行きますか?」

「サスーン・ハウスへ言ってくれ」と言うと、運ちゃんの目が大きく開いた。


shanghai North_bank_of_Suzhou_Creek


20分で黄浦江のバンドに出た。ジャンク船やクーリーが漕ぐ舟が目に入った。やがて、淡緑色の三角の塔があるビルに着いた。

「飛鳥さんと長谷川さんですね。お客様が待っておられます」とフロントの英国人女性が言った。すぐに会議室に通された。

「犬養です。お久しぶり」とあの海軍大佐が椅子から立ち上がった。

「海軍特別陸戦隊はどうですか?」

「まだまだ増兵が要る。このサッスーン・ハウスを外交官との交流に使っている。実は、頼みがある。青竜会をご存知か?」

「は、福岡のヤクザと支那のギャングの地下組織ですね?」

「そうです。秘密結社などではない。だが、日本軍も、支那軍も、英米までが利用している」と大佐が言って地図を広げた。日本租界の一部を指さした。「蛇口」というスラム街である。





「日本人ギャング退治?」

「そうです」

「憲兵を送ったらいかがですか?」

「いや、難しい。公に出来ないからだ」

「任務となら、ハルピンの領事の指示が要ります」

「貰ってある」

「われわれ二人だけですか?」

「頭目の南原竜蔵に引導を渡してくれ」と南原の写真を数枚くれた。南原は頭を剃り、弁髪を下げ、支那人貴族の服を着て、アメリカ製の自動小銃を持っていた。凶悪な目付きの男だ。

「今は、五月の末日です。杉原領事に電報を打ちたいのです」と長谷川が大佐に言った。三人は屋上の見晴らし台に行った。サッスーン・ハウスは12階建てだ。今世紀始めてのエレベーターなのである長谷川が電信機を取り出した、、「返事は上海日本領事館にとキーをカタカタと打った。

カレンが「上海滞在は長期になる」と読んで驚いた。想像はついていたが、やはりそうなった。カレンが貞子から来ていた手紙を上海の日本領事館に郵送した。


shanghai Hongkou_Japantown


「蛇口菜館」という料理屋の三階のホテル・アパートを手配していた。蛇口菜館が青竜会の本部だからである。長谷川が入ると、視線を感じた。奥のテーブルにひとりの男が座っていた。弁髪である。給仕がやって来た。

「ここはプライベートのクラブだ」と言った。飛鳥が左腕の刺青を見せた。小さな亀の刺青であった。奥の男が南原だろう、、給仕が南原と話をしていた。弁髪が頷くのが見えた。大阪の亀沼組はバイヤーだからだ。

「カネはあるのか?」と弁髪が言った。博多訛りがあった。奥の部屋に案内された。ボデイガードらしい支那人がふたりの体を触った。武器は持っていなかった。飛鳥が「ドサ」と革鞄をテーブルに置いた。

「南原さん、10万円ある。収めてくれ」

「インドの阿片の値段が騰がっている。戦争だからだ。来週の日曜日朝10時、残りの40万円持ってここへ来い」と南原が言った。飛鳥と長谷川が同時に頷いた。

南原は、ちょっとやそこらで、知らない人間を信用する男ではなかった。亀の刺青など誰でも出来る。飛鳥が見せた刺青は偽だと見抜いていた。

「少尉、南原な、俺の刺青は偽モノと見抜いているよ」

「どうしますか?」

「だが、あの10万円は本モノなのだ。残りの40万円を奪うだろう。日曜日だが、偽殺を持って行く」

「大尉殿、われわれの命は大丈夫なんですか?」と言うと、飛鳥が鞄から手榴弾二個を取り出した。

「拳銃も持って行く」と作戦を長谷川に教えた。長谷川の背中に戦慄が走った。「自分は科学者なのだ。妻も娘もいる。

日本料理店に入って、トイレに入った。支那人の商人の服に着替えた。日本人の女給がじっと見ていた。何も言わなかった。喋ることが危険だと知っているからである。天麩羅で日本の米を食った。長谷川が大きなチップをテーブルに置いた。蛇口菜館の三階に帰った。

飛鳥がオリンパッスをいじっていた。レリースに銅線を付けている。銅線の端に電池を付けて、スイッチを絆創膏で巻いた。スイッチを押すと、シャッターが降りた。長谷川が「何をしているのか?」と見ていると、飛鳥が飾り窓にオリンパスを取り付けた。その上に手鏡を取り付けた。元天台宗の小坊主は、なかなか器用なのだ。長谷川は飛鳥が何をしているのか判った。蛇口菜館の玄関に入って来る人間を撮るためだ。蛇口街は、有闇にすっぽりと包まれた。だが蛇口菜館はネオンで輝いている。手鏡を見ていると、何人かが出入りしていた。よく見ると、同じ男や女であった。椅子に座って紹興酒を舐め、舐め飛鳥がシャッターを切っていた。蛇口菜館がネオンを消した。二人の男と女が一人出て行った。

「少尉、実はな、特高警察に後を着けてもらっている」

「アジトですね?」

「青竜会は、いろんな商売をやっている。本屋~女郎屋~阿片屈、、」

「それをどうするんですか?」

「わからんが日本から親分衆が来るらしい」

「魔都というわけですね」

「阿片商売は日本人はヤクザしかやらん」

「満州映画の甘粕がやっております」

「だが、儲けるためじゃない。クーリーに払う賃金なんだ」

                        *

日曜まで、4日あった。二人は服装を替えて、サッスーン・ハウスに行き、犬養大佐に会った。

「手榴弾を投げたことがあるかね?」と大佐が長谷川に訊いた。「ない」と言う返事なので、陸戦隊基地へふたりを連れて行った。

「手榴弾はタイミングなんだ。間違えれば確実に死ぬ」長谷川がゾ~とした。軍曹が二人を特訓した。長谷川が握り方をなかなか覚えないので、「すみません」と言って、長谷川の手を叩いた。何度もやり直したのである。「ギャング諸共、豚死するのは御免だ」と飛鳥が心配して見ていた。

将校クラブで軽食が出た。海軍のメシは美味いと評判だったが、やはりその通りだった。船で日本から食材を持ってくるからである。コーヒーと菓子が出た。そのとき、、

「長谷川少尉、手榴弾を握ってみたまえ」と突然言った。練習用の爆薬が抜いてあるものだった。「そんなに強く握ってはいけない。持ち歩きたまえ。慣れるためだ」

二人は夕方まで、新兵と共に、上海上陸戦の講義を聞いた。北満州の馬賊征伐とは全く違う近代戦であった。長谷川が貞子と娘を想っていた。「もうすぐ、臨月だが」と天井を向いた。

                         *

「少尉、これを見てみろ」と飛鳥が領事館が届けた印画を見ていた。英国人、アメリカ人、日本人、支那人が写っていた。40人は出入りしていた。南原は写っていなかったが、南原の女と思われる姑娘(クウニャン)が写っている。長谷川が、この年に流行った「支那の夜」を想い出していた。

「こいつらが資本家だ。日本の敵なのだ」

「すると、日本は国民軍とだけ戦争していない?」

「その通りだよ。日本の軍部は総力戦を誤解しているんだ。陸大を優等で卒業と言ってもな」と言った飛鳥が美濃の斉藤道三に見えた。

「石原莞爾参謀は優秀な人ですか?」

「頭はいいね。世界最終戦争論は読む価値がある。だが性格は宥和タイプだから、性格の強い、譲らない、板垣征四郎大将に従う。この性格が弱い参謀が多いのだよ。そこへ、過激なバカモノが加わる」

「はあ?」

「つまり日本の参謀は理数に弱いのさ。感情に惑わされる。退くことを選ばず、突撃など無謀な手段に出る。頭の構造は日露戦争時代と変わらない。可哀そうなのは兵隊さ」と陸戦隊の80%が上海上陸戦で戦死したことを語ったのである。

「ああ、そうだ。君に手紙が来ている」と机の引き出しから一枚の封筒を取り出した。長谷川がナイフで封筒を丁寧に開けた。

――道夫さん、元気にしてますか?赤子が産まれました。大きな女の児です。また娘です。ごめんなさいね。お乳を吸う力がとても強いのよ。私は幸せです。名前を考えてください。急ぐことじゃないけど、名無しでは可哀そうだから(笑い)。陸奥湾のホタテが豊漁です。陸軍が買い上げていますから、兵隊さんは缶詰めで食べられるのよ。道夫さんがいたら、私とミチルが炭で焼いて食べさせています。秋田、新潟の米は中国戦線へ、みな送っているそうです。でも、あなたは今、何処にいるのでしょう?貞子

貞子が新生児に乳をやっている写真と一家の写真が入っていた。それを飛鳥がじっと見ていた。

「こどもが生まれました。また女の児です」と笑った。飛鳥がロビーへ行って紹興酒、ビール、焼き豚を持って帰って来た。

「今夜は作戦はやめよう」と斉藤道三が椅子に座ってビールを抜いた。長谷川のコップに注いだ。「吉野木挽唄を唄いたいが、となりに聞こえるだろうな」と笑った。


「支那の夜」宣伝スチールの渡辺はま子 1938

(註)支那の夜のレコードを持つ渡辺浜子。名前の由来は横浜生まれ。祖父がアメリカ人の血を引いていた。


「それなら、今年のヒット曲、支那の夜はどうですか?」

「よし、それで行こう」

“支那の夜、赤いランタン波間に揺れて、 港上海白い霧、 出船入船夕空の、
星の数ほどあればとて、 愛しき君を乗せた船、 いつの日港に着くのやら、
姑娘(クーニャン)悲しや支那の夜”

飛鳥が低音で唄った。元天台坊主は歌手になれる美声の持ち主なのだ。

――坊主~歌手~憲兵大尉、、不思議なひとだなあと長谷川が再び思った。このひとと旅をしていると戦争を忘れるのである。

                  ~続く~

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プロフィール

伊勢平次郎

Author:伊勢平次郎
 
伊勢平次郎はペンネーム。アメリカへ単身移住してから50年が経つ。最初の20年間は英語もろくに話せなかった。英語というのは、聴き取りにくく、発音しにくい厄介なものだ。負けん気だけで生きた。味方を作ることが生き残る道だと悟った。そのうち、コロンビア映画、スピールバーグ監督、トヨタ工場、スバル・いすゞ工場の北米進出、日本の新聞社に雇われた。2013・6 冒険小説You Die For Me アブドルの冒険(邦題)をアマゾンから出版した。昨年のクリスマスには、King of Pepper(英語版)胡椒の王様を出版した。日本、英国、デンマーク、ドイツの読者が読んでくれたわ。妻のクリステインと犬2匹で、ルイジアナの湖畔に住む。

写真は、ハヤブサ F. p. japonensis。カタカナで書かれる。瞬間飛翔速度は、時速300キロという猛禽。

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